電子書籍が売れないとしたら、その理由は?

電子書籍問題の三部作、最後の記事です。今回は、取り次ぎは金融であるというお話です。出版流通での取次というシステムは、電子出版の注目とともに、より世間に知られることになりました。是非はともかく、これまで何十年の間、出版業界を支えていたのは事実です。

この話は、以前に出版を行う会社に居たときに聞いた話で、今は違っているかもしれませんが、大筋はそのままだと思います。その会社の話だけでなく、複数の会社でそうなっているというのを聞きました。出版社が書籍を出版し、取次に納品し、取次が書店に納品する、そして定価販売を義務づけられているけど、書店は自由に返品でき、それは出版社へも返品できるというのが原則でした。むかし、その原則にコンピュータ系ではおそらくただ1社アスキーだけが「返品不可」をやっていたのも記憶されます。しかし、普通は返品自由なので、書店にとってはリスクが低く、とりあえず注文するという気軽な発注にもつながります。

出版社にとっての出版から返品までのサイクルは、早く半年くらい、長くて1年あるいはそれ以上ということを聞いた事があります。今はもっと早いのかもしれません。このとき、驚くことに、出版時の納品によって、出版社は納品しただけの売り上げが立つらしいのです。そして、返品の度に買い取りになるのか、清算になるのか分かりませんが、取次に対しての支払いと、返品されてきた書籍の引き取りが発生します。つまり、出版直後はほんとうに読者の手に渡っていないのに出版社は売り上げになるという仕組みです。事実上、取次が出版社に対して金融しているのと変わらないという気がしますが、どうでしょう?

従って、出版を始めたばかりの出版社は、出だしがきわめて好調です。全部売れるからです(笑)。しかし、しばらくすると、返品の山で実は売り上げていないことが分かります。そうなると、ともかく、タイトル数を増やして突っ込むことで、売り上げを確保するという悪循環が始まるかもしれません。しかし、返品がどっさりとは言え、私の感覚だと、5〜10冊のうち1冊が大きく売れて、残りが損益分岐点程度なら、出版社は十分黒字になると思っています。全部が損益分岐点では人件費が出ません。ですが、時々ヒットを出すくらいでもうまく回るようです。返品があっても、またじわじわ売れるかもしれないし、ともかく、時々ヒットを打つくらいの感じでなんとか行くのです。

電子書籍は売れないと言われます。電子書籍は、まさに売れた分しかカウントされないので、過去の書籍に比べて売れている感じがしないのかもしれません。しかしながら、実は取次による金融システムによって、紙の書籍は売れているという錯覚に陥っている可能性も否定できません。出版後1ヶ月程度で、売れているかどうかは紙の書籍の場合、なかなか分かりません。最近は書店が減っているので大分分かるのかもしれませんが、一方の電子書籍はまさに生データなのです。出版社としてお金がきちんと(かどうかは問題あるんだけど)入ってくるビジネスに主軸を置くのは当然です。そして、お金の論理で「電子書籍は売れないですから」と言う訳です。

電子書籍の世界に、紙の書籍の取次のような金融的システムはあるでしょうか? 取次の闇の部分だけを引き合いにして邪魔者扱いするのはもうやめましょう。現状はともかく、古い時代に書籍の購入者から業界を含めて、読者の利益とみんなが儲かる仕組みを彼らは構築してきたのだとも言えます。ユーザの論理は重要ですが、業界として成り立つ仕組みがないと、絵空事で終わってしまいます。iPhoneが、Apple独自の流通網App Storeによって成り立ち、そしてそれが成功の一員となったことを改めて思い出し、電子出版にも紙の出版物と同様な業界モデルを本格的に模索をしなければならない時期にあるのではないでしょうか。

Leave a Reply