FileMaker 19のJavaScriptはES6で書けるのか?

FileMaker 19が発表されました。1番の目玉は、JavaScriptということでチェックしてみました。Webビューアは便利な機能である一方、MacとWindowsでHTMLのレンダリングエンジンが違うことが非常に不便なところであり、結果的に機能制約の多いWindows版で開発して、Macでチェックするということになっていたかと思います。また、JavaScriptに関する追加機能である、JavaScriptからFileMakerのスクリプトを呼び出すことも試してみました。

まず、以下のようなレイアウトを作りました。下半分のテキストを、上半分にあるWebビューアに表示するものです。WebビューアのURLとして「data:text/html,下半分のテキスト」となるような実験環境を作りました。まず、navigator.userAgentの結果をみてわかるように、Internet Explorer Ver.11相当です。Trident 7.0という文字列がそれを示しています。手元で調べた結果だと、FM17がTrident 7.0でした。それ以前のものは残っていないので、わからないのですが、いずれにしても、レンダリングエンジンはFM19では変わっていません。

JavaScriptの関数のなかに、「FileMaker.PerformScript()」という記述があります。このように、JavaScriptからスクリプトを呼び出すことができます。引数は、スクリプト名とスクリプトを引数を指定します。ただし、この関数が使えるようにするには、Webビューアのオプション「JavaScriptによるFileMakerスクリプトの実行を許可」にチェックを入れておく必要があります。最初はオフになっているので、入れ忘れないようにしないといけません。

ここでは次のような、単に1行だけのTestスクリプトを定義しておきました。

Webビューア上に見えているボタンをクリックして、JavaScriptを実行してみます。すると、隣のテキストフィールドをquerySelectorで参照して、そこに入力した文字列をvalueプロパティで取り出し、それをFileMaker.PerformScriptの引数に渡してTestスクリプトを実行し、ダイアログボックスが表示されています。なるほど、JavaScriptとの連携がだいぶんとやりやすくなりました。

なお、もう1つの新機能は「WebビューアでJavaScriptを実行」というスクリプトステップです。このスクリプトステップは1つの関数を呼び出すものです。これにより便利そうなのは、正規表現での文字列処理あたりがまず浮かびます。

ここで、コメントにしている行を有効にしてみます。バッククォートで囲むと、文字列のテンプレート処理が可能になり、${変数}で、変数やあるいは式の値を文字列に埋め込みができます。しかし、残念ながら何も表示されなくなります。つまり、JavaScriptのコンパイルで失敗していて、JavaScriptのプログラムが動かない状態になっています。もちろん、ボタンを押しても何も起こりません。なお、変数定義のlet、constについては、IE11がサポートする数少ないES6機能の1つです。

Mac版のFM19だとこのように、文字のテンプレート処理もきちんと動いています。userAgentで出てくる結果は、OSに入っているSafariと同一でした。ChromeやEdgeは「AppleWebKit/537.36」と出るので、FileMakerはOSに入っているものを利用していると思われます。

そういうわけで、FM19でJavaScriptがどの程度ジャンプするのか気になったところですが、Windows版がIE11相当なエンジンであるので、残念ながらES6(正しくはES2015というべき?)でのプログラミングができる状況ではありません。Babel使うくらいなら、ES5というか、IE11互換で記述した方が良さそうですね。

ちなみに、現在、JavaScriptで作られた様々なライブラリは「ES6のみ」という限定がされているものはまだ少数派ですが、Reactなんかは最初からES6で作られていますし(ReactアプリをIE11で動かす方法はある)、INTER-Mediatorの最新版はIE非対応としています。一方、メジャーなライブラリはIE11対応しているので、IE11エンジンだからといって、世間のライブラリが使えないということはほとんどないと思います。いずれにしても、Claris社がすっきりと「ES6対応です」と言わないのは何故だろうかと思っていたのですが、そういうことだったわけです。

[続開発プロセス#14] エンクロージャー/リピーターの制約

前回の記事で、HTMLのテンプレートの設計、つまりページファイルの設計を出すときに、非常に根深いところにある制約の話が必要であることに気付きました。ですが、前の記事が長いだけに、別途記述するということで、連投となりました。

話を少しすっ飛ばしたのは、ページのモックアップにある左側の、カテゴリ一覧の設計です。まず、オブジェクト指向的に正しくモデリングをするということを進めます。以下の図は、ともかく見えるオブジェクトとをクラスとして記述して、全体をまとめるであろうCategoryBox配下に並べたところです。オレンジ色のメモに記述したように、ここには矛盾があります。ここでは、「小分類は必ず何かの大分類に所属している」前提があるとしているので、このように、大分類に所属しない小分類が存在しえるモデルは、モデル自体が間違っているので、正しい設計とは言えません。

ここで、小分類は大分類に所属することをモデルとして表現してみます。小分類の名前とボタンがあり、それぞれ、MinorCategoryLabel、MinorCategoryButtonクラスですが、既に存在する大分類の名前であるMajorCategoryLabelに関連づけてみました。これだと、小分類の存在は大分類の存在を前提になっている状況は示しています。しかしながら、オレンジ色のメモに記述したように、小分類の中でラベルとボタンがバラバラであり、ラベルが4つでボタン3つでも成り立ちそうなモデルです。ここで、1つの小分類は、何らかの1つの対象が保持する形にであるべきではないかと考えます。

そこで、次のように、小分類の項目をまとめるMinorCaterogyBoxクラスを間に入れてみました。この辺りで分類そのものをデータベースのテーブルに入れていることを考えれば、MinorCategoryLabelなどフィールドに相当するものが、レコードに相当するMinorCategoryBoxにまとめられて、それが1つの大分類に所属するという状況をだいぶんと正確に示してきていることが伺えます。ここで、改めて大分類に目を向けます。ここでの大分類の名前を示すMajorCategoryLabelは大分類の1項目の中の1つのフィールドであり、属性の1つにすぎません。これ自体が大分類項目1つを代表するのはちょっと無理があるのではと考えられますし、小分類の類するから、「大分類の1つの項目をまとめるものがあれば良い」ことが考えられます。

そして、次の図のように、大分類の1レコードに対応するMajorCategoryBoxが存在し、大分類の1つのフィールドは、このMajorCategoryBoxから1対1で表現しています。また、1つの大分類から複数の小分類が関連づけられることも、MajorCategoryBoxとMinorCategoryBoxの1対多の関係として表現できています。ここで、エンクロージャー/リピーターの関係を1対多の関係に持ち込み、データベースのデータをバインドしたいと考えます。これはINTER-Mediatorの肝になる機能です。

ここで改めて、エンクロージャー/リピーターをモデルとして示します。HTMLのテンプレートは何がクラスで何がオブジェクトかというのは視点あるいは場面によって変わると思われますが、HTMLの記述可能な範囲において、エンクロージャーがリピーターを含み、リピーターにはターゲットノードが含まれる階層構造になっています。オブジェクト図で記述すると明白なように、これらはクエリー結果のリレーション/レコード/フィールドと言った階層に一致しています。

INTER-MediatorはDOMの領域でテンプレート処理を行っています。テキストのレベルで行うより高い粒度になりますが、一方でそのための制約が発生しています。このリレーションとテンプレートを合成するアルゴリズムでは、テンプレートにあるリピーターを一度複製を取って削除します。複製は所属するノードも含めるので、複製はテンプレートそのままにターゲットノードを含めて保存されています。そして、リレーションの中にレコードがあればその保存したリピーターを複製して、エンクロージャーの子要素とします。この作業を繰り返します。この流れによってリピーターがレコードの数だけ繰り返されて、一覧表示が完成します。

このとき、必須ではないのですが、エンクロージャーの子要素は全てリピーターである方が最終結果は予測付きやすいです。仮にエンクロージャーにリピーターでない子要素がある場合、現状は結果的にリピーターが繰り返す前に集まってしまいます。それでいいのかもしれませんが、そうなら、エンクロージャーの前に記述すればいいことなので、リピーター以外はエンクロージャーの子要素にはしないというルールは問題ありません。ところが、前要素→リピーター→後要素のように並んでいた場合、気持ちは前要素→展開したリピーター→後要素のようになって欲しいかもしれませんが、そうなりません。そこで、header、footerとなるリピーターやseparatorとなるリピーターも定義しています。とにかく、テンプレートで並べたリピーター以外の要素が展開後どうなるかを意識しなくてもいいように、リピーター以外は子要素にないのが良いと考えます。これは、INTER-Mediatorの大きな制約なります。

ここで、エンクロージャーとリピーターの展開は、1対多の箇所に対応づけられるのがわかったので、以下の図のように、ステレオタイプで、enclosure/repeater/tareget nodeを割り当てました。しかしながら、ここで、MinorCategoryBoxがリピーターなのですから、その上位であるMajorCategoryBoxがエンクロージャーになる必要があります。もちろん、そうすると、MajorCategoryBoxはエンクロージャー件、さらに上位のコンテキストに対するリピーターでもあります。この状態でINTER-Mediatorは稼働するのではありますが、こうなると、MajorCategoryBoxの子要素に、MinorCategoryBoxとMajorCategoryLabelの2つの要素が割り当てられます。前者はリピーターですが、後者はリピーターではなく、INTER-Mediatorの制約に反します。そこでどうするかを考えないといけません。

ここで、新たに、MinorCategoryConteinerクラスを導入します。つまり、レコードの数に応じて複数存在するMinorCategoryBoxクラスのオブジェクトをまとめる存在のものを用意します。HTMLではこの記述は、汎用タグのdivやspanで簡単にできます。すると、MajorCategoryBoxはMajorCategoryLabelとMinorCategoryContainerを含み、リピーターを含まないことになります。(なお、AllSelectButtonは本来はエンクロージャーであるCategoryBoxの外に出すべきです。この要素は、リピーターではないからです。)

このような、エンクロージャーとリピーターの間の制約があり、そのために、ここでは4段階のdivタグで囲まれるようなHTMLコード例を示したわけです。

この制約は一般には考えにくい事実かもしれません。HTMLは独特の柔軟性を持っていることを利用しているということと、やはりデータベースの検索結果であるリレーションという表形式のデータを自動的に展開するという仕組みが微妙にコンフリクトする場面でもあります。リレーションの結果を調整するのはもちろんですが、一方で、HTMLのテンプレートも、リレーションをマッピングできるように調整しないといけないということになります。

元々、INTER-Mediatorは、trタグの要素がtbodyタグ要素の子要素として繰り返すことで、レコードの展開を「繰り返し」の拡張命令的な処理をしなくても実現できることを発見したのが始まりです。tbodyタグの子要素にはtrタグ要素しか登録できません。それ以外のものはテーブルの外にはみ出ますし、定義上、trしか存在できないはずです。また、同時にselectとoptionについても同様な関係があるとして、これらの2組は自動的にエンクロージャー/リピータとして認識するようにしました。前述のカテゴリ一覧も、tableの中にtableを作る方法でできると説明してしまえが一言で終わってしまい、あとは試行錯誤してコンテキスト定義を行えば動くでしょう。しかしながら、data-im-control=”enclosure” / data-im-control=”repeater”により、どんなタグでもエンクロージャーやリピーターになりうるようにしたのですが、その結果、明示的にエンクロージャーとリピーターのタグを記述しないといけなくなってしまっています。デザイン的には不要でも、INTER-Mediatorのアルゴリズムに合わせるために、ここでのMinorCategoryContainerのような要素が必要になります。

[続開発プロセス#13] INTER-Mediatorによるアプリケーション

制約のある状況での開発プロセスについて、MVCフレームワーク、FileMakerでそれぞれ簡単ですが、設計をやってみました。そして、本題であるINTER-Mediatorでの設計を今回は説明します。

まず、以下の図は、共通の設計モデルを示すクラス図に、INTER-Mediatorで考慮すべきことをメモとして追加したものです。まず、CategoryModelに紫色のメモで示したように、カテゴリーの全リストはINTER-Mediatorでは不要なので、ここメソッドを削除しています。また、PickingUpクラスやMemoListクラスの属性は、結果的にデータベースのテーブルにあるフィールドが必要になるので、ここではどんなデータがUIのレイヤーに来るのかを明示するため、属性にフィールド名を追加しました。

まず、前の図の下の方にあるステレオタイプがtableの部分をみてください。これは、ドメインモデリングの作業で作ったものと同じであり、もちろん、このままデータベースのスキーマとして定義します。アクセス権の設定なども行、データベースの準備は進めておきます。そして、ステレオタイプがmodelのものは、「データベースから何が抽出されたいか」を操作で示しています。これらの機能を、この後の定義ファイルの設計において、コンテキストとして取り出せるものを用意する段階で改めて調べます。

そして、前の図の上半分に記述されたUIレイヤーについて検討を進めます。まず、UI Componentステレオタイプの2種類のものは、INTER-Mediatorでは実装された機能やプラグインとして用意されているので、それらを呼び出すだけでOKです。ここは機能そのものやプラグインの制限が影響なければ特段の配慮は通常は不要です。

前の図で、緑色に塗ったクラスは、結果的にはある段階で、エンクロージャーとして展開可能なものと対応づけるようにします。INTER-Mediatorでの設計のポイントは、エンクロージャーとリピーターの特定、つまり、どこでこれらの要素を出すのかによります。ここでは設計段階なので、まずは、データベースから得られる1つのリレーションに対して、UIレイヤーでは1つのクラスとして認識するところまでを進めます。つまり、メモの一覧がデータベースにアクセスしてリレーションとして得られます。リレーションなので複数のレコードですが、そのレコードには、緑色のクラスの属性にあるようなフィールドが存在するはずです。その意味で、緑色のクラスがリレーションかあるいはエンクロージャーを示すのであれば、その属性というのは途中をすっ飛ばした不正確な記述になるかと思いますが、ここでは勘弁性を優先してこのように記述します。この記述については、定義ファイルの設計でも同様な考慮をします。

MemoListクラスは、データベースから得られたメモのリストを展開するという意味ではわかりやすいでしょうけども、PickingUpは、大分類と小分類が入り乱れます。一応、1つのクラスPickingUpとして記述しましたが、それは正しいでしょうか? ですが、まずはカテゴリを取り出してボタンと一緒に表示するという仕組みが必要であることを表明するためとしてPickingUpクラスの存在は無駄なものではありません。しかしながら、大分類/小分類というかなりややこしい状況があります。

ここから、HTMLのテンプレートを実際に作ります。もちろん、これはINTER-Mediator用語で言えばページファイルを作成に入ります。ここで解決すべきことは、エンクロージャーとリピーターの特定になります。もちろん、要素の取り出しも重要ですが、INTER-Mediatorではこの「エンクロージャーとリピーターの特定」さえできれば、モデリングは終わったも同然だと考えられます。ただ、今回は設計プロセスを追うのが趣旨なので、詳細に記述します。

エンクロージャーとリピーターの特定に必要なことは、得られるリレーション間の関連です、つまり、リレーションシップの特定に他なりません。まず、前のシステムデザインで記述されたMemoListについては、メモが複数あるので、リスト全体とメモ単体の間に1対多の関係があり、ここで1に対してエンクロージャー、多に対してリピータを割り当てれば良いので、ここでのエンクロージャーとリピーターの識別は容易です。なお、結果的に1:*になる部分は*の数が一定しない、つまりデータに応じて変わる部分であり、結果的にデータベースからのリレーションを展開することになるでしょう。ボタンが10個並ぶなら、1:10になるので、これらはスタティックなものとも言えます。つまり、HTMLのテンプレートをモデリングした場合に出てきた1:*の部分がエンクロージャーとリピーターとして記述すべき箇所になるということが言えます。

しかしながら、ここで、ステレオタイプがtableの部分をみてください。memoテーブルのtop_category_id、sub_category_idは、それぞれcategoryテーブルのcategory_idと対応づけていて、ここで各メモがどのカテゴリーに分類されているのかを記録できるようになっています。また、category同士のリレーションシップも設定されており、これにより、大分類と小分類のレコードの関連づけが行われています。このようなスキーマにみられるリレーションシップは、エンクロージャーとリピーターの内部にさらにエンクロージャーとリピーターが存在することを示唆します。そのことを考慮して、ページファイルの中心部分をモデル化したものは以下の通りです。

まず、HTMLテンプレートの設計の上部を説明しましょう。ここは、システム設計でのPickingUpの部分です。ここでは、大分類と小分類が一覧されているという見え方になっていますが、もう少し詳細に見ると、1つの大分類に対するその小分類が複数リストになっています。つまり、大分類と小分類が1対多の関係になっているものが、さらに、大分類の数だけ並んでいるということになり、全体から見れば、多数の大分類があり、さらに、その大分類に対応した多数の小分類があるという階層構造になっています。これらは、ネストしたエンクロージャー/リピーターで定義します。外側のエンクロージャー/リピーターは次のように定義するとします。class属性は、HTMLテンプレートでのクラス名をつけておきます。

<div data-im-control="enclosure" class="CategoryBox">
    <div data-im-control="repeater" class="MajorCategoryBox">
        <div data-im="****@category_name"></div>
    </div>
</div>

このリピーターは、大分類の項目1つに対応します。なので、リピーターの中でcategory_nameフィールドを表示すると、このエンクロージャーに割り当てるコンテキストが大分類の一覧にしておくことで、ページ上には大分類だけの一覧が表示されます。コンテキスト名はまだ決めていないので、****にしておきます。

そして、このリピーターの中に、対応する小分類の一覧を表示するエンクロージャー/リピーターを定義します。次のようになります。

<div data-im-control="enclosure" class="CategoryBox">
    <div data-im-control="repeater" class="MajorCategoryBox">
        <div data-im="****@category_name"></div>
        <div data-im-control="enclosure" class="MinorCategoryContainer">
            <div data-im-control="repeater" class="MinorCategoryBox">
                <button onclick="****">選択</button>
                <div data-im="****@category_name"></div>
            </div>
        </div>
    </div>
</div>

ここで、内側のエンクロージャー/リピーターの表示を行うためにリレーションの取得を行う場合、その時の外側のリピーターで展開している現在のレコードと照合する、つまりリレーションシップを考慮することが、定義ファイルでの設定で可能です。その仕組みを利用して、内側のエンクロージャー/リピーターでは特定の大分類に対する小分類だけが表示されるようになります。

引き続いてMemoLineのリピーターから続く2つのエンクロージャーについて説明します。ここではまず、memoテーブルだけだと、大分類や小分類は主キー値を記録していることで、どの分類なのかは記録されていますが、単なる数字なので、人間が目で見て判別するのは困難ということがあります。つまり、memoテーブルの値に加えて、選択した分類の名前を知りたい分けです。名前が別テーブルにあるので、つまりはそこでリレーションシップに応じたテーブル連結をするのがSQLでの定番ですが、UIレイヤーではそういう用途にselectタグによりポップアップメニューが使われてます。ポップアップメニューは、ここでは、top_category_id値を対応させることができますが、そのcategory_idに対応する値を内部で記録しつつ、ページ上には別の文字列を表示することもできます。この場合、categoryとmemoが1対多の関係になりますが、逆にメモの一覧にある大分類のポップアップメニューには、選択された大分類項目だけでなく、選択肢として表示されるように全ての大分類の項目が必要であり、それぞれoptionタグでselectタグの内部に記述しなければなりません。つまり、selectは選択肢の提供と、選択したものの名称表記の両方の機能を持っているのです。逆に言えば、selectを適切に使えば、選択肢の用意だけで選択したものの名前はそこにあるものを使うので、一石二鳥であるとも言えます。INTER-Mediatorでは、selectとoptionの関係をエンクロージャー/リピーターとして扱うので、その関係をモデル図の右下のあたりに2箇所記述しました。

INTER-Mediatorで一番難しいのは、このエンクロージャー/リピーターの特定、そして、その階層関係での定義ではないかと思われます。エンクロージャー/リピーターを特定するには、そこにリレーションが得られるという事実と関連づければ良いのですが、階層関係になると非常に難しくなるというのはあるでしょう。やはり、動作原理を知るのがしっかりとした設計を行うためには必要なことは言うまでもありません。

ここまでのところで5つのエンクロージャー/リピーターが出てきました。よって5つのコンテキスト定義が必要という見方もできます。ここで、コンテキストを実際に定義して行く作業に入ります。実際には4つの定義で問題ないことがわかります。

ここで、コンテキスト定義は、以下の図のように、Contextクラスを元にインスタンス化したオブジェクトとして記述することにします。現実には連想配列なのでコンテキスト定義は言語の意味でのクラスを元にはしていませんが、認識可能なキーが決まっているのは、属性が定義されていることと同義ですので、この点は問題ないと思われます。実際には、コンテキスト定義を利用して、コンテキストオブジェクトが生成されます。正確に記載すると以下の図の左側、Precise wayと書かれた方のクラス図になります。つまり、コンテキストオブジェクトConcreteContextObjectはテーブルConcreteTableを継承しているか、あるいは参照することになり、その結果、ConcreteEntityの配列がstore属性から参照できるようになっています。ここで、ConcreteContextObjectをインスタンス化した時、当然ながら継承元のフィールドがそのまま所有します。ここで、テンプレートバインディングやあれこれとUMLの仕組みを試したのですが、モデルとしてしっくりくるものがありません。そこで、右側のように、Concise wayと書かれたように、コンテキストで利用する実テーブルであるTableを継承して、ContextObjectを定義します。名前は任意にして、このような目的のクラスであることをステレオタイプのcontext objectで示すことにします。こうすれば、右下のようなオブジェクトが記述でき、テーブルのフィールドをそのまま持ちます。もちろん、この表現は不正確であり、コンテキストオブジェクトはTableによるレコードの配列を持つのではありますが、そこを正確に全部記述すると図が煩雑になるだけなので、「実際にはそういうことだけども勘弁性を重視してこのように書く」という合意ができたとして、Concise wayのような表記をします。

ここでHTMLテンプレートの設計を見ながら、コンテキスト定義のオブジェクトを検討します。ここでは代表的な属性だけを記述することにします。結果をまとめると以下の図になります。

まず、カテゴリの一覧部分、つまりHTMLテンプレートの設計でいえば、CategoryBoxクラスとMinorCategoryContainerクラスを取り出します。これらはエンクロージャーなので、リレーションと対応させないといけません。ここでは図で示せるように、tableステレオタイプのcategoryクラスを継承して、top_category_listとsub_category_listのコンテキストオブジェクトクラスを定義し、それらのインスタンスとして、緑色のボックスのオブジェクトを記述しましたが、これは実際にここまでの記述は不要でしょう。記述すべきは山吹色のボックスのコンテキスト定義のオブジェクトのみです。コンテキスト定義のtop_category_listでは、viewあるいはtable属性を見ることで、リレーションの元になっているテーブルが判別できるので、結果的に薄黄色と緑色のボックスは、コンテキスト定義の情報や、スキーマの情報からすぐに入手可能であるということです。

同様にして、memo_list、minor_category_list、major_category_listのコンテキストを定義します。memoテーブル由来のコンテキストはmemo_listのみですが、残りの4つのコンテキストはcategoryテーブルを由来としています。このように、同一テーブルからであっても場面によって(つまりコンテキストによって)必要とするデータは異なり、その結果定義は別々に必要ということになります。ここで、major_category_listとyop_category_listの定義は同一なので、これは一方だけを使うことでも構いません。もちろん、名前だけが違う同一の定義が2つあっても構いません。そこは好みの問題です。定義をよく見ると、parent_category_idがnullのレコードが大分類の項目であり、このリレーションはコンテキストには強く依存せず、どこでも同じ条件で取り出しができることになります。minor_category_listとsub_category_listはどうでしょうか? relationshipの定義が微妙に違います。カテゴリのリストの方は、大分類そのものと関連があるのに対して、メモの方はメモで選択されている大分類項目と関連があります。つまり、これら2つのコンテキストは、別々のものです。つまり、場面が違うものであり別々に定義しなければならないことになります。

ここまで設計すれば、あとは手を動かして実装するだけになります。必要な属性などを追加してページファイルを作り、コンテキスト定義をまとめて定義ファイルを作ります。

ここで、HTMLテンプレートのAllSelectButtonやMinorCategoryButtonを見てください。ここで、ボタンを押して、メモの一覧に検索をかけて絞り込んだり解除したりということが必要になっていますが、INTER-Mediatorの機能ではそれは含まれていません。そういう仕組みのボタンは提供されていないのですなので、ここはどうしてもJavaScriptで実装をしなければなりません。それぞれのボタンは次のように定義しましょう。

<button onclick="redrawMemoList()"
        class="AllSelectButton">全選択</button>
    :
<button onclick="redrawMemoList($)"
        class="MinorCategoryButton"
        data-im="sub_category_list@category_id@$onclick">選択</button>
<div data-im="sub_category_list@category_name"></div>

対応するプログラムは例えば次のように作成します。つまり、memo_listコンテキストに対する検索条件を、状況に応じて切り替えれば良いということです。

function redrawMemoList(id) {
  let idValue = parseInt(id)
  INTERMediator.clearCondition('memo_list')
  if(idValue) {
    INTERMediator.addCondition('memo_list',
        {field:'sub_category_id',operator:'=', value:idValue)
  }
  const context = IMLibContextPool.contextFromName('memo_list')
  INTERMediator.constructMain(context)
}

以上がINTER-Mediatorでの実装設計になりますが、実質的には、ページファイルや定義ファイルがモデルそのものであるとも言えます。一度実装に近いクラス図などを記述するのも良いのですが、結果的にHTMLや定義ファイルを書いてしまった方が早いとも言えます。つまり、デザイン時の作成物と、目的とする作成物が近いというのがこうしたツール(いわゆるローコードツール)の特徴なのではないかと思われます。

そして、INTER-Mediatorでは、エンクロージャー/リピーターの理解は不可欠です。このようなツールごとに理解しておかないといけない特有の概念は必ずあり、それが最も注目すべき制約ということになるのではないかと思われます。