[DBデザイン#17] 実例から考える: 変更ポイントを考える

一連のデータベースデザインのお話は、仕様変更のことに入っていますが、当然ながら、設計の初期段階で「今まで聞いてなかった仕組みを実装しないといけない」というような場合でも通じる話です。その場合、まだ、実装をしていないという場合には、かなり自由に、そして理想的な状態での機能追加ができるのですが、前回説明したように実装をしてしまうと品質低下と戦うことになります。

さて、納品書に出荷日が必要であり、出荷が複数になる場合もあることがわかりました。ここで、「出荷」というエンティティは明らかに存在するとして、納品書、販売明細と出荷がどんな関係になるのかということを決めなければなりません。だいたいでいいということはなく、決めないといけません。

ここでまず、表としてデータを展開してみます。その後に「出荷」の概念の分離をしたいと思います。最初の案は、出荷日にカンマ区切りで記載されていたので、そのような出荷日フィールドを用意することです。1フィールドの追加なので、さほど大きな変更ではなさそうです。もちろん、第一正規形を満たさないので分割するという王道な意味での設計原則はすぐに思いつくことです。具体的には、特定の出荷日の納品書を集めるというのが、複雑な検索条件になることや、出荷日がDATE型ではなく文字列になるため、日付として正しい形式でデータを追加したり分離したりといった処理が増えるといったデメリットがあります。しかしながら、見えづらいデメリットですが、販売明細の1行1行について、いつ出荷したのかはわかりません。それを知らなくてもいいのかどうかもわかりません。いずれにしても、これは「見かけを整える」だけであって、その後の処理にはあまり良い方法ではなさそうです。

もう少し、出荷日について、DATE型のフィールドを用意した状態で進めるとしたら、フィールドを複数用意することになるでしょう。FileMakerの繰り返しフィールドも本質的にはこの方法になります。まず、これで見てわかることは、3回以上の出荷があったら記録できないなど、一見して問題点がわかります。もちろん、前者の問題点は同様にあります。

明細に対して、いつ出荷するかを記録してみる方法はどうでしょう?次のように「出荷日」を販売明細側に持たせます。このデータでは顕在化していませんが、同一日に別々に出荷があっても、1回でまとめて出荷した場合と区別がつきません。それでいいのかもしれませんが、ダメかもしれません。また、納品書側に表示する方法も若干SQLが複雑になります。ですが、納品書の表に出荷日を持たせるよりも、柔軟に対応できるのかもしれません。

さて、ここで実は大きな問題が見えて来ます。そもそも、出荷はどうやっているのか? 出荷はおそらくいろんな商品をまとめて送るでしょう。納品書通りの場合もあるでしょうけど、在庫がない場合にはあるものだけを送ったりするのが一般的かと思います。その時、販売明細の1行に忠実に出庫するかどうかは、その会社のワークフローそのものに関わることです。仮にその仮定が正しいとすると、販売明細は、出荷の明細としても利用できて、システム的にはシンプルになります。しかしながら、人間がそういった処理をするときには、販売明細とはあまり関係なく、ある顧客に対するある商品の未発送数を把握して、その未発送数ないしはそれより少ない数を1つの出荷明細として管理するようになるのではないでしょうか? 紙の台帳のような仕組みでそういうことを倉庫部門で管理している可能性もあるのです。

そこまで考えるとさらにややこしくなって来ました。このような複雑な問題は、やはり分割して考えます。まず、「納品書と出荷の明細は対応している」という状態を考えた上で、その後に「対応してない」という状況を考えることにしましょう。実際に仕様を考えるとき、疑問が発生したら即座にそれに答えてくれると言ったような状況にはならず、お客さんに問い合わせて、場合によっては検討の時間が必要になるかもしれません。では待つのかというと、そうではありません。設計するときには、結果的にあらゆる可能性を考えることになります。問題点や、利点、その後の開発作業等を、いろんな可能性に対して思い浮かべ、記述します。なので、確認作業をしながらも、可能性の追求をし続けます。おそらく、そうした想定のどれかに落ち着くものです。

「納品書と出荷の明細は対応している」前提での新たな表の導入をしてみます。おそらくは、2つのアイデアのどちらかになります。1つは以下のように、既存の納品書と販売明細の関係を崩さないように、納品書と出荷予定が1対多の関係になるようにすることです。新たに「出荷予定」という表を用意します。若干、具体的に「予定」という言葉を補うことにします。納品書、販売明細に変更はありません。おそらく、改変のための作業は少ないと見込めるでしょう。出荷予定の表は、1回の出荷が1レコードとなります。出荷IDはここでは便宜上のもので、納品書IDが記録されているところがポイントです。これにより、ある1つの出荷は特定の納品書に対するものとなります。もちろん、納品書と出荷が対応していないとなると、話は崩れるので、まずは、シンプルな状況を考えることにします。なお、この設計だと、販売明細の1行1行に対して、それがどの出荷予定なのかはわかりません。単に出荷の日付を記録するというコンセプトのものであって、納品書に追加した出荷日フィールドを第一正規形に従うように表の分離をしたものとも言えます。

ここでの出荷予定の表にある実質的なフィールドは出荷日だけです。現実の出荷にはもっとフィールドが必要かもしれませんが、出荷日に対して1対1になる存在が「出荷予定」とも言えるでしょう。この仕様変更の1つの目的には「複数ある出荷日を記録する」ということであり、それだけでいいのなら、このスキーマで十分です。ポイントは、出荷日が納品書ではなく、別の表にあるということです。何度も説明していますが、これがリレーショナルデータベースの設計の1つの重要な考え方になり、その導入には1対多の関係を抽出するということなのです。

一方、別の考え方として、納品書はいくつかの出荷に分離され、その出荷に対してどの商品をいくつ送るのかという明細情報があるという考え方です。ここで、販売明細からは納品書IDはなくてもいいので、一旦消してあります。その代わり、どの出荷に対応するものなのかを示す出荷IDのフィールドがあります。出荷が1回でも、あえて出荷の表に行を追加しなければなりません。大まかに言えば、すでに開発が始まっているとしたら、変更箇所は多そうです。要するに「出戻りが〜」と言われるような改変です。

ここで、設計段階で考えることに、開発可能で理解可能なユーザインタフェースが作れるのかということがあります。ER図やクラス図ではその考え方は一般には明示的にはなっていないので、設計者が気づかないといけません。これらのダイアグラムは一般には静的、つまりシステムの処理が一段落しているときに、データが正しく存在しているかを示すのであって、そこに至るまでの問題点は記述されていないのが一般的です。

そのことをどう考えるのか? それは、表に対するCRUD、つまりCREATE(新規作成)、READ(読み出し)、UPDATE(更新)、DELETE(削除)がそれぞれスムーズにできるためにはどんな前提があって、どんなユーザインタフェースが適しているかということを考えます。もちろん、検討のポイントはREADを除く3つの更新系処理です。当初の設計は、納品書と販売明細がありましたが、この2つだけです。2つだけだと、結構話は早く、納品書の行が先に作られて、そこに販売明細が順次いくつか作られるというCREATEの段取りはすぐにわかります。DELETEは各行で考えればよく、カスケード削除にするかどうか、論理削除(ソフトデリート:実際にデータは削除しないでフラグ等で削除したことにする手法)にするかくらいの検討になります。ちなみに、1対多の場合、1が先に作られるという前提があると、そんなに複雑にはなりません。

しかしながら、最後の図のように、1対多の連鎖があると、実はかなり難しくなります。最初に納品書の行を作るとき、自動的に1つ目の出荷予定を作るという工夫はまずは思いつきます。そして、その後、販売明細が追加されていくのですが、そのとき、出荷予定と紐づく形で販売明細が作られます。これはボタンを押して画面遷移をさせれば作れるのですが、おそらくかなり面倒なUIになりそうです。画面遷移をあまりせず、それでいて出荷予定とうまく紐づくという意味で、販売明細のCREATEやUPDATEを実現するUIはどうすればいいでしょうか? 適当に作ると、きっとダメ出しされてしまいます。プロトタイプを作って検討するなど、出戻りが少ない作業の段取りを考えるべきです。ここで、出荷予定が変わった、出荷が後から無くなった場合はどうしましょう?このように3つのエンティティが関わると、その途中がなくなるということも発生します。削除する出荷予定に紐づく販売明細は、そこで繋がりが切れるので、別の出荷予定に付け替えないといけません。もちろん、明細を持つ出荷は削除できないという仕組みは必要でしょうけど、いずれにしても、明細を作って削除するだけでなく、どの明細に紐づくのかという結合先のUPDATE機能、つまりちょっと特殊なUIが必要になります。

結果的に、全ての表に対してのC_UD(Rを除く。ですが、現実にはUPDATEとREADは密接に関連します)の必要性を考え、それがスムーズにできるのかどうかを考えた上で、最終的なスキーマに落ち着くでしょう。スキーマだけの問題ではないのです。ロジックやUIを含めて考えるのが設計になります。

仕様変更があるとこのようにして、UIは込み入り、お客さんが「こうして欲しい」というのが実現できないので代替案を考えて交渉するなど、一気に複雑さが増します。データベースのスキーマ変更は、システム全体に波及することがあるので、なるべくそうならないようにしたいとも考えるところですが、やはり要求実現という考え方からするとどうしてもやらないといけなくなるかもしれません。ちなみに、出荷予定を導入した2つのスキーマのうち、後者のような運用をしているところはあまりないと思われますが、UIが複雑化する絶好の例だったので紹介してみました。単に出荷日を記録するだけで良いという要求であれば、前者のスキーマにするか、販売明細側にフィールドを作るかというところで、なるべく改変箇所が少なくなるように考えるのが一般的であると思われます。販売明細側にフィールドを作る方法も、「出荷日を変更する」というUIが込み入りそうですので、具体的に考えてみるのもトレーニングになりそうです。

次回は、「納品書と出荷の明細は対応していない」前提でスキーマ変更を考えてみましょう。

[DBデザイン#16] 実例から考える: 変更内容を探る

設計変更についての議論が前回はちょっと大雑把だったのですが、変更とはみたいな話も長くなりますので、仕様変更の流れで具体的な変更方法と、一般的な話を並行的に進めてみたいなと思っています。

開発途中での仕様変更が嫌われる最大の理由、言い換えれば、それをすべきではないという根本的な理由は、システムの品質が低下する可能性が高いからです。品質低下とは、バグが発生するとか、メンテナンス作業がやりにくい、処理速度が低下するなど、いろいろな指標があります。ある種のシステムに対する変更は、その部分に直接関係する部分を多くの場合は調整する必要が出てきます。そのため、単に何かを追加したり削除したりということで済みません。ということで、変更箇所が波及するのです。結果的に間接的にも含めたいろいろな部分の変更が必要となります。それらを変更すべきところ以外の箇所は以前の状態を留め、変更箇所が変更されているというのが理想なのですが、それが難しいのです。人間がプランして、人間が実施するので、漏れや失敗等が発生します。最近はそういうヒューマンエラーを最大限になくす方法はテスト手法を含めていろいろ開発されていますが、単にシステム改変以外に、改変による品質低下を防ぐための作業が、改変そのものよりも多くなるのが一般的です。仕様変更は、少なくともシステムに何か手を入れます。その結果、より良くなる、例えば気付いてなかったバグが見つかったなどの利点もあるのも確かですが、平均的には品質が落ちると言っていいのではないでしょうか。要するに、システムに要素が増えればバグの可能性も増えるということです。

仕様変更を嫌う別の見方は、これは業者目線ではありますが、コストが増えることです。時間が増加し、プランがずれることも、結果的にはコスト要因です。開発の早い段階でなら、仕様変更のコストはあまり増えず、「もうちょっと頑張れ」的な判断になってしまいますが、開発終盤や開発終了後となると、現実的にはコストはそんなに気楽な数字ではなくなります。いずれにしても、作業者は辛いです。理屈の上では、品質低下を防ぐということに尽きるのですが、例えば、機能が実装されて本格的な統合テスト(例えば人間が手順を見ながら確認するようなタイプのもの)をする前と後で変更のコストが変わってきます。テスト後だと、再度、本格的なテストをやり直すことが多いと思われます。

仕様変更を受け入れないと、顧客が望むシステムから遠ざかることになり、これはこれで難しい問題です。品質確保のためのコストは、システムに深く関わっているエンジニアでも判断が難しいですし、また実際の変更作業の負担がのしかかってくるという点では避けたいところでしょう。一方、エンジニアではない人たちは、どんな変更なら容易で、どんな変更なら困難なのかはよくわかりません。なるべく最初の仕様検討時に必要な情報は出してもらうようにしてもらう必要がありますが、ともかく、後からだと「無理かもしれない」ということをちらつかせて、最初の段階で仕様を出し切ってもらうしかありません。それでも仕様変更があった場合、納期をずらす、費用を上積みするなど、交渉をするしかありません。もちろん、開発に入る前にそうした交渉が可能な契約にしておく必要があります。業務範囲を開発前に記述するのはどうせ曖昧になるのだからと言って、契約自体を重視しない人もそこそこいらっしゃいますが、それは良くないです。完全でなくてもいいので、業務範囲を定義して、そこから外れた場合には交渉の余地を残す契約に力を注ぐべきです。交渉の結果、仕様変更は見送るということができるとしたら、それは建設的な関係が構築できたと考え、見送った仕様を別の機会に解決するようなことを共同で進められれば理想的です。

前回、納品書に出荷日がないという指摘がありました。そういう仕様変更があったときも、最終的な目標となるレイアウトの変更などとともに、表で考えるのが基本です。納品書に単に出荷日を追加したのが以下の左側のレイアウトです。まあ、こういうことだろうなとまずは思いたいですね。

この納品書で問題がないとすれば、どこに出荷日を記録すればいいでしょうか?ここでは、納品書と出荷日が1対1であることに目をつけます。販売明細と出荷日は、左のレイアウトで見る限りは別々のように見えます。つまり、出荷日は販売日と同じように扱われているという見方もできるでしょう。もちろん、顧客や商品と出荷日は関係がなさそうです。販売明細から見れば、納品書を通じて出荷日を求めることができるのですが、いわば間接的な関係になります。つまり、出荷日というデータは、納品書との1対1の関係が最も強いものとなるということで、納品書に「出荷日」フィールドを用意して、日付を1つ記録できるようにすれば、左の納品書を構成可能なデータを持つことができると言えるでしょう。

フィールドを1個増やすだけでですね。簡単ですね。FileMakerだと、数分で終わりそうです。最も、このシステムは納品書だけではないと思うので、他との調整も必要かもしれませんが、実はフィールドを1つ増やすだけというのは、そんなに大変なことでもありません。おおむね、定義の追加と、レイアウト上のオブジェクトを増やすだけです。ただ、プログラムがいろいろあって、そこにロジックがある場合はそれらを全部見直す必要がありますが、ここでは納品書という表にタッチしている部分をチェックすれば良いので、品質低下を発生しそうな要因は比較的少ないと言えます。

ですが、こうした仕様変更をしていると、またまたさらに別の担当者から、商品ごとに異なる日に出荷する場合もあるということが出てきました。それじゃあ、出荷日をカンマで区切って記述しましょうか?

これでいいのでしょうか? 同一日に2回出荷したらどうするのでしょう? そもそも、受注と出荷の関係はここまでには何の情報もありません。ここからは、業務、つまりワークフローを詳細に検討しないと、仕様の理解に大きく失敗する可能性がある箇所になります。「別の日に出荷されることもある」という事実は、少なくとも、1つの納品書は、複数の出荷になる場合があるということを示していると言えます。これは、見方を変えただけです。「どんな場合があるのか」をありとあらゆる角度で考えれば、結論が見えてきませんでしょうか? この場合、1つの納品書に出荷は最低1、多い場合は2、3…と増えていくという現実が想定できるということです。

だとしたら、その納品書は何やねんということになりますが、おそらくは営業部門が単に、受注内容を記録しただけのものということになります。納品書というよりも、受注請書の方がより実態に近いと思われますが、こういった世間と違う意味なのにその社内では流通してしまっているユビキタス言語は、開発に携わる人はよくぶち当たって混乱させられた経験があるかと思います。つまり、納品書の実態は「受注」なのですが、名前を途中で変えるとこれまたややこしいことになるので、しばらくは「納品書」で行きます。

ここで、「出荷」という言葉が出てきました。そして、すでに記載したように、納品書と出荷は1対多の関係になります。そうですね、すでに説明した通り、出荷という新しい表が必要になるということをこの分析は示唆しています。つまり、このシステムには「出荷」という存在が必要になります。このような「納品書」や「商品」といったある意味まとまった1つの概念のことを「エンティティ」と呼ぶのが一般的です。まとまり方はエンティティによって微妙にあるいはドラスティックに違うとも言えます。ですが、おおむね、エンティティはシステム内の重要な概念であることが多いです。ER図的に記述すると、仕様変更により、左のものに、「出荷」のボックスを追加して右のような図になりそうだというあたりがまずは導かれたと考えます。

「出荷」と何が線で引かれるのか? 新たに出てきた出荷をどのように扱うのか? ということは、実際に表に展開しながらの話になります。次回に回しましょう。

[DBデザイン#15] 実例から考える: 設計の変更が発生した

難しいとされるデータベースの設計ですが、それができる人はいとも簡単にやってしまうことを目の当たりにして、何かコツはあるのだろうなとは思うところでしょう。そのコツは実は言語化しづらいものではあるものの、それを実例を通じてなんとか言語化してみようというのが一連の記事の目標でもあります。以前にも説明したように、数学的な意味で基礎から積み上げた理屈は完全に正しいものです。しかしながら、現実のデータベース設計を全て数学ではできません。なぜなら、要求がベースにあり、要求が数学的な意味で正しく定義できるような場面は現実にはないからです。要求は曖昧なところだらけなのです。なので、実際のデータベース設計では、表という基本的なデータ構造を書いたりあるいは思い浮かべたりしながら、矛盾のないデータ構成を作り上げるということを行います。

ここまでは、部署ごとにどんな表が必要かということを出発点にしました。もちろん、これは単一部署で使うようなシステムでも、ともかく業務で発生するデータを表の形にまとめてみて、そこから検討を行うという方法を取りました。もちろん、共通の情報は共通化する、つまりよく言われるマスター化するということを行うのですが、「商品」という同一名称のものが部署によって扱いが異なると、それは同じ商品でいいのかどうかということを考えなければなりません。ここまでの記事は一例であり、実際の案件ではもっといろんな制約や要求が出てくると思われます。こうして、いくつかの表が登場した時、その表の関係性を見ると、理想的には、1対多になっているということです。表に分けるというのは、実は1対多の関係を洗い出していることに他なりません。一方、1対1の関係は、同一の表に存在することが多くなりますが、これはちょっと言い訳がましい説明です。ともかく、1対多の関係を見つけるということが重要になります。

ここまで、営業部門での単純な納品書を考えてきました。そして、システム開発ではよくある仕様変更です。「仕様変更はしてはならない」ということは今では言えないことになっています。仕様変更を受け入れないと、顧客が望むシステムに到達できないからです。顧客が自身の業務を知っているのは当然と思うかもしれませんが、実は全くそんなことはありません。業務ができるというのと知っている、そしてそれを説明できるというのは全く異なります。まず、業務ができるとは言っても、1人が全部把握していることはほぼありえず、結局は複数の従業員にノウハウが分散しているのは一般的です。そして、それら業務の関連を理解していてワークフローに展開できるかというとそれができる人はまた限られますし、下手をすると社内では誰もそれができないこともあります(そういう事例にも当たったこともあります)。説明可能性はもういうまでもないですね。ズバリ言えば、お客さんの頭の中はファンタジーでいっぱいで、お客さんが話す内容はポエムなのです。私たちエンジニアは、ポエムで記述されたファンタジーを、実際に稼働するシステムへと展開する役割を持つ非常に重要な立場にいるのですが、過剰にポジティブに考えると余計凹むかもしれませんね。

ともかく、システム構築をしているとこんな話が出てきたとしましょう。納品書のレイアウトができてきて、テストをし始めると、ある担当者が口走ったとしましょう。

仕様検討する段階で持ち込んだ納品書のサンプルには、なぜか出荷日がなかったのか、どうだったのか、ともかく、出荷日が必要だそうです。これは、レイアウトに必要なのか、あるいは記録として必要なのか、どっちなのかもよくわかりませんが、そういうファンタジーだと諦めましょう。

次回より、この「出荷日が必要」という要求がどんな世界に発展するかをじっくりと追いかけることにします。

[DBデザイン#14] 実例から考える: さらに関係を探す

前の記事までに、納品書と販売明細が別々の表として記録するという設計方針を説明しました。その時に示した図を再度掲載しますが、ここではさらに「商品」と「顧客」も別の表にしています。

商品を別の表にすることはすでに説明した通りではありますが、この販売管理の枠内でも商品を別にする理由は出てきます。販売においては、1つの商品を、いろいろな会社にいろいろな時期に出荷します。1回の販売と出荷を納品書が表すとすれば、商品と納品書は、1対多の関係になるからです。この時の「1商品」が何者なのかは非常に表現がしずらいです。箱1つ1つではありませんが、かといって大まかな意味での会社の商品でもありません。販売明細の1行に対して、1つの商品が結びつくことになるので、「ロボットいか2号を5個」といったような、個数とセットにした出荷時の内訳の1つを示すデータの構成要素がここでは商品になります。概念として説明は結構大変ではありますが、仕事をしている上ではそんなことに悩んでいる場合ではないので、おそらく多くの方はスルーしているところかと思います。なお、1対多になるのは、商品と納品書ではありません。よく見ると、商品が登場するのは販売明細です。ここは実際のデータがどこにあるかを見極めて、関係のある表が何なのかを判断しないといけません。すなわち、商品と販売明細が1対多になります。販売明細は、1つの納品書では数行ですが、実際に仕事を行うと多数の納品書ができるので、販売明細はそれらの全ての納品書に所属するものが行として追加されたものになります。それが1つの表になります。その表には、1つの商品が多数現れるので、1対多になります。

一見すると、商品と納品書が1対多と思ってしまうところですが、ここまでのところで、商品明細と納品書が多対1であることを分析しています。ということは、1つの商品明細は1つの納品書と結びつくので、商品>商品明細>納品書という2段階の関連を考えれば、関係性は1対多と1対1になります。つまり、商品から納品書を見れば1対多であるのですが、それはすでに構築された商品名サイト納品書の関係は無視できない、つまり、この関係性を崩すと、納品書は成り立たないので前提として存在すると考えないといけません。その点でも、感覚的には商品と納品書の直接の関係はありそうではありますが、精密にデータを記録するという意味では直接の関係は考えず、2つの関係があるので、結果的に関係はあるのだけど、設計上の注目点ではないということになります。言い換えれば、2つの関係を保つことで、明細の実現、商品マスターの実現ということができるということです。

なお、図では商品に「単価」も入れました。もし、全ての納品書で、商品が決まれば単価も決まるということなら、このように商品テーブルで単価を記録します。そして、必要になれば参照することで例えば単価と個数の掛け算ができます。一方、商品が決まっても単価は決まらないということなら、単価はむしろ販売明細のフィールドになります。同じ商品でも、700だったり690だったりするという状況です。ただ、現実の案件は、これらの極端な場合とは限らず、その中間だったりします。もっとも、「商品が決まれば単価が決まる」というルールを厳密に行う場合もあったりするので、前者に寄ることはあるかもしれません。このような、商品にあるべきか販売明細にあるべきかという議論は技術的な意味で決まるものではなく、結果的には要求次第ということでもあります。この辺りは別途議論しましょう。

図では「顧客」という表を作りました。これはもうお分かりの通り、1つの顧客に対して、頻繁に販売をするのが普通だから複数の納品書が作られます。つまり、顧客と納品書の関係は1対多となります。また、納品書に複数の会社名が入る、つまり1つの納品書で複数の顧客に出荷するようなことは多分ないでしょうから、やはりそうした制約も1対多の関係の基礎となるでしょう。

さて、ここまでで、販売管理は4つの表に分割しました。前の図で見ている右半分はER図と呼ばれます。こうして設計した内容を表として記述するのはわかりやすいですが、現実世界のシステムでは、多数のフィールドが登場するため、表が横に長くなりすぎて、一覧性は低くなります。なので、「どんなフィールドがあるか」をボックスにまとめて書き、ボックスが1つの表であると表現します。そして、表と表の関連を線を引いて表現します。ER図等はまた改めて検討しますが(なんか、宿題だらけ〜笑)、こういう図を記述することで、設計をコンパクトに示して、全体像を把握しやすくします。もちろん、設計者はこの図を見て、頭の中で表に展開して、データを意図した通りに保持できるかということを常に考えます。それができないと、この図の作図はもちろん、読み取ることもできません。

このように、ER図は、表と表の関係、そして個別の表の内容を定義した極めて集約度の高い設計図なのです。現実の開発では、いきなりこの図がアーキテクトから出てくるかもしれません。実装者はこれを参考にして、間違いなく機能を実装することを求められるということになります。いずれにしても、具体的かつ全体を示すという意味でのモデルとしては非常に役に立つダイアグラムとして認識されています。

ここまでで、表に分解して考えるシリーズを一旦終わらせます。同じように「製造管理」も考えてもいいのですが、引き続いて、「仕様変更」ということを表で考えて、設計に持ち込むことを考えていきます。

[DBデザイン#13] 実例から考える: 関係と意味

前回の記事では、納品書をもとに、そこからそこから1対多の関係見つけました。何度も出ていますが、1対多の関係、あるいは1対1の関係を見つけるというのが設計での大きな目標でもあります。この関係は、双方向で見たときに1対多なのか1対1なのかを判断します。そして、多くの場合は、1対多の関係は、異なる表で表現することが可能です。言い換えれば、異なる表で表現する方が効率が良い場合はもちろんですが、異なる表に表現しないと記述ができないような場合もあります。1対1の場合は、同一の表にまとめられるということが一般的です。つまり、関係を導くことで、データベースの設計として記述可能な関係性が得られるのです。

ここで、販売明細はいきなりこれは表だからという理由をつけましたが、もう少し詳細に考えてみると、例えば、商品名は「いろいろな商品がある」のだから、納品書に対して商品名は、1対多の関係になります。また、同様に単価もそうです。単価の場合、偶然異なる製品で同一価格ということもあるかもしれませんが、商品ごとに単価は異なるという原則を考えれば、納品書と単価も1対多です。そして個数はどうでしょうか?個数は整数なので、全部1ということもあるかもしれませんが、同一の商品を考えてもその時々、つまり納品書によって個数が違うことを考えれば納品書に対して1対多です。前回の図の1つを再掲しましょう。この図は次回もきっと登場します。

ただ、販売明細を1対多で考えるのはちょっと分かりづらいのですが、ここで重要なことは、商品名・単価・個数という情報が1塊となっている点です。この3つの組み合わせに、納品書がどれかという情報を付け加えると、原則として、システムに2つとないセットになります。これは、通常は納品書の明細に商品が重複して登場しないことを原則としています。実はこの考え方は集合論の定義でもあるのですが、それはさておいて、商品名・単価・個数は一塊なので、その塊を表の1行として、つまり1レコードとして把握して、納品書と販売明細は1対多の関係にあるということを導き出します。その1対多の関係を実現するために、「納品書ID」という方法で、販売明細の各行がどの納品書に結合するのかを記録するという方法が一般的です。

このように、表になってしまったものを個別で考えるとかえって分かりにくいかもしれません。「表として整っている」ということをまずはヒントとして使い、その中で、各データがどんなふうに振る舞うのかを考えることがポイントになります。

販売明細の金額は、「単価×個数」で求められます。ということであれば、金額は、販売明細の1レコード内の情報から求められる「計算フィールド」ということになります。SQLでは、ビューを使う方法が一般的です。FileMakerだと計算フィールドという機能があります。つまり、金額は、販売明細の一員として扱えるということが成り立ちそうなので、販売明細のフィールドとします。ただし、SQLの世界では、計算フィールドという考え方がないので、設計上は式を考えておくのが理想的ではありますが、SQLでのテーブル定義には計算フィールドは登場しないので、ER図に明示しづらいとも言えます。いずれにしても、商品名や個数のような、実データに関わるフィールドではないということを意識できるようにしておくのが設計上は重要です。一般には途中の段階でどこに計算式を実装するかを検討することになるからです。

一方、合計や消費税などはどうでしょうか? これらは納品書に1つなので、納品書と1対1に対応することから、合計は、納品書に存在するフィールドと考えられます。しかしながら、これも計算で求められそうです。販売明細の金額の合計で求められるので、計算フィールドであると言えるでしょう。ただし、この場合は、納品書の側にあるにもかかわらず、販売明細のデータを使って計算が必要です。ここで2つの表が関係していないと、販売明細のどのデータを使って計算すればいいかが分かりません。逆に、納品書から見て関連している商品明細、つまり納品書の明細リストにあるものが取り出せなければなりません。もちろん、これは、「納品書ID」が同一のものを検索することで取り出すことができます。リレーショナルデータベースではこのような関連を利用して、別のテーブルのデータを取り出し、計算結果を示すということも可能です。こうした機能があるので、「合計」は納品書のフィールドとして存在可能ということになります。ただし、関連する表との関連が確実に取れないといけないということになります。その前提の上で、式を記述することができるのです。

今回は細かいことをあれこれ書いていますが、実際の設計では、慣れた方はこのような内容はおそらく反射神経的に理解はしているところです。むしろそこをすっ飛ばさないと細かいところに気も時間も取られて前に進めないと思われるところでしょう。ですが、1つ1つの事象が何を意味しているのかをしっかり吟味しないと、やはり見落としが出てきます。そうした作業の中で、システムが扱う世界の1対多の関係を発見していくという作業が、データベースの設計においては重要なことになるのです。

[DBデザイン#12] 実例から考える: データの関係を解きほぐす

実際に納品書を見ながら何を考えればいいのかを紹介しましょう。再掲になりますが、こういう納品書があるとします。典型的な営業で使われるような書類です。

まず、下半分は都合よく表になっています。表になっているものは、1つのまとまった単位とします。この表には名前がついていないので、ここでは「販売明細」と名前をつけましょう。表になっているので、もちろん、行が複数ありますが、多分、1行以上、レイアウトが許す多数の行数があり得るでしょう。まさに、この行はレコードになりそうです。そうなると、商品名、単価、個数、金額という4つのフィールドは、販売明細のフィールドと扱えるということになります。このように、すでに表として形成されているものは、すでにデータの関係性をそこに表現しているとも言えます。

ところが、表の下の方に、合計、消費税、請求額とあります。表の中だから「販売明細」の仲間でしょうか? 確かに、これらの金額は、販売明細の表の中にある数値、つまり、金額等の合計で求められるので、確かに関係はありそうです。ですが、データベースの設計をするときに考えるのは、それらのデータの存在そのものが、他のデータとどのように関連があるかです。ここで、合計などの数値は、1つの納品書について1つ存在します。納品書ごとにおそらくは違うでしょうけど、1つの納品書に2つの合計値があるということは理屈の上では成り立ちません。つまり、合計、消費税、請求額は、納品書と1対1の関係にあります。一方、合計などと販売明細の関係は、1対多の関係になります。販売明細に存在する複数の行と、その合計の間では、前者は1つかもしれないし、50個かもしれません。それらから、1つの合計という数値が得られるので、多対1の関係になるのです。

このように、データの存在あるいは成り立ちが、他のデータとどのように関係するのかを考えます。納品書の日付は、納品書に対して1つだけなので、納品書と日付は1対1の関係にあります。

一方、顧客名が見えています。これも納品書に対して1つだけ書かれているので、納品書と1対1の関係かと思うところですが、ここでさらに、図にあるような納品書が現実には多数作られるということを考えます。つまり、納品書が1枚作成できるのはもちろん基本機能としては必要ですが、要求を満たすには、納品書は多数、そして内容が異なるものを作らないといけなくなります。そうすると、当然考えられる一つの結論としては、1つの顧客に対して何度も出荷することになるのですから、実は顧客名と納品書は1対多の関係になります。つまり、1社に対して長い年月を経ることで、多数の納品書を作成するということになります。

ここで、多数の納品書を考えたとき、納品書と販売明細の関係が1対多ではなく、多対多になぜならないのかという疑問もあると思います。だんだん説明が込み入ってきますが、頑張りましょう。まず、結論を言えば、1対多の関係が1つの納品書で完結しているので、多対多の関係にはなりません。ここでは「販売明細」がどんな性質のものかを考えて、その結論が導き出されます。販売明細は、商品、単価、価格、金額を保持している表です。ここで、ある会社に「ロボットいか2号、800円を5個、即ち4,000円の出荷をした」という情報が1行書かれているとします。しかしながら、現実には、こうした営業活動を多数行うので、販売明細の表には別の会社に対して同様にロボットいか2号を5個出荷という一見すると全く同様な情報が登場しそうです。これはいいのでしょうか? 実際に、こうした販売明細を表に記録、つまりデータベースに記録するときには、データ上は同一の出荷情報であっても、異なる納品書に書かれたものは別々のものとみなします。言い換えれば、販売明細の各行は、実物では顕在化していなかったとも言える「どの納品書にその明細が記録されているのか」という情報を付加することで、1枚1枚の納品書で1対多の関係が完結するようになっているので、それらが集まっても、1対多の関係であるとみなすのです。

ここで商品についても同じように考えたいのですが、それは次回としましょう。まずは、「納品書」と「販売明細」の2つの表に分解し、それらの結合を明示するために、納品書IDというフィールドを割り当てます。これも、以前に説明したものと同じですが、ここではまず、納品書側の納品書IDに301, 302…と先に番号を振ることとします。そして、その納品書に所属する販売明細の行について、すでに降った納品書IDの値を記入します。つまり、以下の図では、販売明細の最初の2行が、納品書の最初の1行に対応し、販売明細の3, 4, 5行目が納品書の2行目に対応します。つまり、同じ納品書IDのもの同士が組み合わされて、1枚の納品書になるという状況を作ります。

顧客や商品についての議論も必要でし、「販売明細の金額は計算で導き出せるよね」みたいな話もしなければなりませんね。また、右の方にER図なんかが見えていますが、これも次回あるいは次回以降に説明します。

[DBデザイン#11] 実例から考える: 表から実物へ

データベースの設計において、何を考えれば良いのかということを実例で紹介してきました。ここまでのところで、まずは管理したい情報を表にしてみて、その表に、必要な情報を埋め込むということを通じて、部署やあるいは業務ごとに、その対象すなわち1レコードに相当するものが違っており、それをしっかり認識する必要があることを説明しました。そこで、共通の概念があれば、別の表として切り出しても、元の表は再現できることも説明しました。ここまでは実際の表を見ながら考えれば、確かにそうであるということは理解してもらえるかと思います。問題は、綺麗に並んだ表を作れるかどうかです。これは、顧客やステークホルダーを交えて議論、調査、検討を行い、必要なデータを全部は無理としても一部でも見える形つまり表に落とし込めるかどうかというところに関わります。これは簡単なようで難しいですが、頑張るしかありません。もちろん、Excelで作ってもいいのですが、絶対にネ申エクセル化してはいけません。セル結合禁止です。そして、同じフィールドにあるべき情報か、別々のフィールドにあるべきかを常に考えつつ、1行つまりは1レコードとして合理的かを考えます。そして、よく分からないから記入しないのではなく、なんでもいいのでまずは記入するつまり見えるようにしておいて、検討を進めるということです。覚えておくのが大変なので表にしているのに、記述を躊躇しては意味はありません。

ここで、実例ではすでに4つの表が出てきました。何回か前なので、再掲ますが以下の通りです。とりあえず、部署ごとの業務を1部署に対して1つの表で表現したものの、共通概念としての「商品」を切り出したところです。

この、共通概念の切り出しというものの見方は、この会社の業務全体を俯瞰するような見地からの検討を行うことであり、いわばトップダウン的な分割ということになります。具体的なデータを表にしながらも、その表は何のためにあるのかということを理解した上で、分離可能なものを見出す手法とも言えます。実は、これはなかなか難しいことですし、これだけでは全ての表の分割は行えません。ざっくり言えば、ここまでの例では「商品」しか切り出せなかったということです。ただ、結果は得にくい方法でもある一方で、こうしたトップダウンな視点を常に持つことが重要なので、最初のフローとして紹介しました。

この後はどうするか? 次は「データそのものを見る」ということを行いますが、その時に「実物の書類を観察する」ということを行います。概念的なものの場合は実物がない場合もあり、その場合は表を作って検討するしかありません。一方、納品書のような実際に業務で使っている書類があるのなら、それを収集します。もちろん、Excelで作ったようなものもあるでしょうし、手書きのものもあるかもしれません。それら実物で、具体的なデータが入ったものをとにかく全て収集します。以下、例えば、納品書を作っているのであれば、実際に典型的なデータが入った状態の納品書を収集しましょう。どんな項目があればいいかということではなく、とにかくデータを見ます。データを見て初めてわかるようなことが結構あるのです。例えば、商品コードを書いているのか書いていないのかということも、単に項目として聞き取りをすると「商品を明細に書きます」くらいの情報しか得られません。コードの有無くらいは大したことではありませんが、個数表記に独特のルールがあって、1,000個以上の個数は特別な表記をするなど、それがシステムに入れ込む仕様かどうかはさておいて、実際の業務では複雑なルールが結構紛れているものです。なので、実物のデータをなるべく見るべきです。実物がないようなものは、表にして、ある意味で実体化することで、そこに内在するルールを見える形にします。

ということで、ここから何回かに分けて、納品書をもとに、営業部門で存在すると思われる「販売明細」という表を、データベースで実現可能な設計として求めます。結果的にいくつかの表に分解できるのですが、納品書上にあるデータが業務上の意味のある表、つまり、業務が可能なデータベースとして表現できるようにします。この後に説明するキーワードが出てしまっていますが(笑)、プレゼンの使い回しなので、お許しください。

[DBデザイン#10] 実例から考える: データベースの理論は勉強する必要があるか?

ちょっと、閑話休題的な話にしましょう。データベースの教科書では、集合論の話から入るいわば数学的な議論を土台にした解説が進められます。しかしながら、実際にデータベースを使い、設計をする上で、そのデータベースの教科書に書かれていることと、実用的なノウハウとの間に隔たりが大きいことに気付く人も多いでしょう。隔たりというか、世界が違い過ぎるというイメージを持つと思います。また、第3正規形などの考え方を学ぶのですが、それらの知識だけでは設計をこなすには遠いと思う人も多いようです。データベースの理論や数学は不要なのでしょうか? もちろん、不要とは言い切れないのですが、その辺り考えていることをまとめてみましょう。

まず、数学をベースにした理論は、初心者向けの情報ではないことは確かです。データベースの理論が数学をベースに組み立てられていることで、さまざまなことが高度に客観的に検証したり、証明したりということができるのです。つまり、数学がベースにあることで、確固した結論が得られていると考えられるというところがポイントです。よって、数学ベースの理論は無視はできないのです。厳密すぎて、最初の定義、つまり集合やドメインという話からリレーションの成り立ちまでの話はいきなり理解ができません。それはいきなりは理解できないのは当然だと思います。抽象度が高過ぎです。今時はデータベースシステムを手軽に組んで利用できる世界なので、むしろ、現実のデータをいじりながら理解し、一定のところまで理解したところで理論を勉強するというのが効率的な方法ではないかと思います。実際、私も、理論の書籍を最初に読んだ時には面食らいましたが、実際にいろんな製品を触って作ったりしている上で改めて理論の書籍を読むと、非常に頭に素直に入ってきたという経験があります。

データベースの設計におけるノウハウは、実はこうした理論に裏打ちされていると言ってもいいのですが、理論の世界で定義されていることは抽象度が高いために、打てば響く的なノウハウではないのは確かです。常に抽象度の高い世界で過ごすのは、さすがに専門家でも辛いですし、実システムは利用者あるいは発注者という存在がいるので、現実の世界に沿った説明をする必要も出てきます。その上で、いろいろな理解しやすくアレンジされたナレッジを多くの人は発案し、あるいは獲得するということをおこなってきたわけです。

そうしたナレッジが、理論の世界のどれと対応しているのかというのは、ある意味面白い話題です。表を分離するというのは第1正規形を適用しているとも言えます。しかし、直接関係してなさそうだけど、重要なナレッジもあると思うかもしれません。いずれ説明しますが、多対多の関係は中間テーブルを確保するという有名なノウハウがありますが、これは実際にそういう実装をせざるを得ないという工夫のノウハウでもあります。ただ、この手法自体は結果的に第3正規形になっているとも言えるわけで、要するに理論上での重要な結論は、必ずしも設計のナレッジのコアであるとは限らないのです。ただ、第4、第5正規形となると、これはちょっと狭い範囲の解決策ではないかとも思います。どんなデータベースでも、第5正規形の領域まで到達するということではありません。ただ、通常は第3正規形までは間違いなく到達していないと、どこかで矛盾が生じると思います。一方、マスターのデータをコピーして残しておくような処理、例えばFileMakerでのルックアップのような処理は、正規形による効率化とは逆行する面もあるものの、要求を満たすという意味で1つの選択肢になります。ただ、これも、逆に正規化が崩れている側面をどう評価するということを考えれば、やはり理論に基づいて考えを及ばせることができるとも言えるのではないでしょうか。この辺り、先々のネタで使います。

そういうわけで、私の一連のブログ記事は、プロの開発者でも、データベース設計となるとちょっと分からんという人や、あるいはそれなりに作れても自己流というか、持ち前の能力でうまくやってきたのが果たして正しい考え方なのかといった疑問を持っているような人に、設計時に何を考えればいいのかということを、理論とは異なる流れで説明をする試なのです。

ちなみに、理論や数学は学習する必要があるでしょうか? 真面目に設計をできるようになりたい方は、必ず勉強してください。よく分からなくても、ともかく頭に一度理論を流してください。忘れてもいいので、ともかく一度は勉強しましょう。そうすれば、ずっと先に、「あ、これはあのことか」というのがたまーに出てきます。それが基礎力というものではないかと思います。ただ、数学は若いうちに学習しましょう。中年以上になると、無理〜!と叫ぶことになります。私と同世代の老化著しい皆さんは、時間をかけて、そして欲張らずに勉強するしかないかと思います。

[DBデザイン#9] 実例から考える: 分離した表から元の表を得る

ここまでのところで、業務分析して、各部署で必要なデータがどんなものかを見える化するために、表を作りました。表の1行1行が表現している内容を考えれば、同じ商品という単語を使っていても、部署ごとに扱い、つまりは商品に対する概念や定義が違っていることに気づきました。また、一方、共通の概念もあり、それは商品の名前は共通であるということで、商品マスターに名前を覚えさせておこうという判断ができたわけです。

この時、商品の表を、製造管理の表の「商品名」フィールドをごっそり持ってくるということでいいのですが、同一名称の行が発生します。今のところ、商品名だけしか商品の表では登場していないので、重複したデータはなくてもいいだろうと考えます。1つだけ記憶していれば問題はないと考えます。製造管理の表では複数の同一商品が存在しますが、それぞれが同一の商品の行を参照すれば、問題はないわけです。ということで、商品の表は商品名の重複がないものにして、番号を振ったということです。

こうして分離しても、元の製造管理の表が得られます。その手続きは次の表の通りです。少ないデータだけならこうして具体的にデータを並べて考えてみるのがわかりやすいでしょう。

最初は分離した表になっていますが、左側の製造管理について、最初の1行を取り出します。すると、商品の102番を参照するようになっているので、商品の表の102番の行を照合し、そしてそれぞれ取り出します。続いて、この2つの1行を、1行にまとめます。つまり、単につなげます。この作業を、左側の製造管理の各行について行うと、最後の表になります。これは、商品の表を分離する前の製造管理の表と基本的に同じです。フィールドの順序は違いますし、商品IDも入っていますが、表として表現していることは同等であると言えるはずです。つまり、どちらの表でも、業務は同様に可能です。

このような、表から表を作る処理を「結合」と呼びます。リレーショナルデータベースの代表的な処理です。SQLでは、JOINというキーワードでステートメント内で記述します。ただ、JOINの処理にもいくつか種類がありますが、これはまた別の機会に説明しましょう。

ここで注目していただきたいのは、商品の表は重複を削除していても、問題なく元の表が再現できるということです。「ロボットいか2号」という文字列を、図で見たように、1つ目と2つ目のレコードで使いまわしています。言い換えれば共有しているのです。どちらも『行を取り出す』と記載する部分で、いわば元の行の複製を作っていて、それを結合した表に持ち込んでいます。結合した表の商品名は、全て、商品の表から複製した情報であるため、当たり前ですが、商品テーブルのデータが正確に結合した表に組み込まれていて、同一の商品の商品名は常に同一であるということです。

この結合結果は、基本的には一時的に使うのものであって、この結合した表自体を永続的に記録しているわけではありません。永続的に記録されているのは、ここでは手続きの最初の2つの表であるのが、データベースの一般的な実装になります。ただし、データ処理を高速化するために結合結果をどこかに覚えておくような最適化処理は今時のデータベースは普通になされていると言ってもよく、厳密に技術的な意味では永続化されているかもしれません。しかしながら、設計の段階では、必要に応じて結合した表を一時的に、つまり、現状の情報を一覧表を作って参照すると言ったような用途で作るという流れが一般的であると考えてください。

次回は、販売明細について検討を進めてみましょう。

[DBデザイン#8] 実例から考える: 分離した表の関係を築く

ここまでに、業務全体をみながら、同じ「商品」でも部署ごとに異なる対象として扱っていることから、記録したいデータは異なるとして、それらを表として表現しました。一方、その中でも共通の「商品」に対する情報を別の表でまとめて共有することも考えました。

この、別の表にしたもの、つまり、複数の表にしたものを1つの表として表現するということが、リレーショナルデータベースのわかりやすいメリットの1つです。なお、この1つにまとめた表は、場合によってはどこかに保存することもあるかもしれませんが、原則として一時的に利用するものであって、それを保存するデータとして利用はしません。あくまで、複数の表として保存し、必要な時にそこから元の表を一時的に得るというのが原則です。

しかし、表を分割したとしても、その2つの表の関連性はどのように確保するのでしょうか? ここで、本来はデータベースの難しい理論を勉強しなければならないのですが、1つの理解の仕方は、参照される側に「番号を降る」ということをやるのです。次の図は、「製造管理」の表に、もともと商品名があったのですが、その商品の名前は営業部門などと共有できそうなので、「商品」という表を分離しました。しかし、分離してしまったらただ消すだけです。製造管理の1行において、どの商品についての製造管理情報なのかを示すために、ここでは「商品ID」という番号を振ることにします。ここでは、「商品」側にも「商品ID」があります。商品IDは、商品が重複しない表の上で、適当な番号を頭から振っていったものです。当然ながら、商品の表の商品IDは重複がありません。言い換えれば、商品IDが決まれば、「どの商品なのか」ということが一意に決まるということです。こうすれば、製造管理の1行目は商品IDが102なので、商品の表より「ロボットいか2号」についての情報であるということがわかるのです。もちろん、ソフトウェアなのでこれをある意味機械的に行うのですが、ここでは設計に必要な概念を整理するために、まずは番号を振るということを考えます。ちなみに、番号を101から順番に振りましたが、別に1、2、3でも、10001からでも構いません。とにかく行ごとに異なる番号であればいいのです。一桁だと、個数っぽいので、わざと桁を多めにして、直感的に判断しやすいようにという意図です。

(「本セミナー」と書いてあるのは、もともとセミナー用に作った資料を流用しているからです。すみませんが無視してください。なお、いずれ、正規形についての情報は色々な形で紹介すると思います。)

ここで、製造管理は5行、商品は3行です。「ロボットいか2号」についての情報が製造管理には2つあり、つまり、2個の商品の製造をしたことがわかります。一方で、商品の表については、ここでは名前の共有だけを目指しているようなのですが、2個製造した「ロボットいか2号」は、どちらも同一の「ロボットいか2号」という商品名です。ということは、商品側では1つの存在で良いと言えます。

商品から逆に製造管理を見たとき、1つの商品「ロボットいか2号」についての情報が1行目と2行目の複数の行にあります。このような関係を「1対多」と呼ばれます。この製造管理の表はおそらく全体の表の一部なので、2個しか製造していないということはないでしょう。つまり、100個あるいは10000個と作っているような状況を想定します。具体的なデータでは何個という個数は求められますが、設計については、具体的な個数よりも「多」であって「1」や「0」といった決まった数値ではないということが重要になります。もちろん、0、1、2・・・と増えていくということで、1である瞬間はあるのかもしれませんが、「関係そのものについて、1なのか多なのか」ということを考えます。となると、商品と製造管理は、1対多であると言えるわけです。

1対多の「1」は、1行しかないということではありません。商品の1つから多数の製造管理が存在し得るということです。そして、逆に見た時には、1つの製造管理から、1つの商品が特定できるということです。このような関係を1対多と呼んでいます。逆に見た時は1対1じゃないかと思うかもしれませんが、一方が1対多なら、関係は1対多と判断します。ちなみに、「多対1」も基本的には同一概念です。説明上の順番で、「商品と製品管理は1対多」、「製品管理と商品は多対1」のような表現がされるだけで、どっちが先に書いてあるのかくらいの違いしかありません。

現実のデータベース設計ではこの「1対多」の関係を、確実に抽出しなければなりません。これに対して、前回説明した「1対1」の関係もあります。1対1の関係は、多くの場合はフィールド、つまり表の列にまとめることができます。一方、1対多の関係は、別々の表として表現するというのが確実な方法になります。本来1対多であるはずの関係を間違えて1対1であるとみなしてしまったら、単純な意味では2つ以上のデータの存在をシステム上では適切に表現できないということになります。すなわち、1対多の関係の把握が、データベース設計での肝になるということになります。

なお、以前にもよく雑誌記事などを書いたときに、リレーショナルデータベースの説明を依頼されたことがあります。そこで必ず言われるのが「番号が分かりにくい。番号が出てきたらもわからない」という編集者からの指摘です。まあ、そうですね。なんで101なのとか(前に説明した通りこれは適当な番号です)、データベースは直感的と言われるのだからもっと簡単なのじゃないかとか言われるのですが、この「番号振ります」は、単なる手続きなので、難しいことではありません。普段から番号を振って、順序を考える基準にするなどしていることと同じことなのです。ただ、普段番号を振らない、あるいは元々番号を使っていない対象に単に振っているだけです。番号振ること自体をディープに理解してほしいわけではなく、ここである意味、表に分割した結果を単純化するために番号を振るという状況を頭の中で作ってほしいというだけで、考えすぎる必要はないと思います。繰り返しますが、番号を振るのは単なる手続きです。

一方、この「ID番号」は、リレーショナルデータベースの理論の上からは必須の定義ではありません。リレーショナルデータベースは、その表の1行を特定できるデータが何かということが重視されるので、それは商品名でもいいですし、社内で使っている商品番号でもいいのです。むしろ、論理的にはその方が現実に近いということもあります。こうした表の1行を特定可能なデータを「キー」などと呼ばれます。ただ、これまでの色々な設計の経験からして、全ての表に連番を振っておくのがある意味確実だと考えます。まず、データベースは連番を振ることを自動的にできるからです。場合によってはその連番を使わないこともありますが、それによって処理が遅くなったり、ディスク容量を圧迫するようなことはないのが一般的なので、「全ての表にキーが絶対に存在する」ことを優先して、数値連番フィールドを設定します。商品名がキーでもいいじゃないかと思われるかもしれませんが、文字列は比較処理がある意味安定していません。整数やUUIDのような一定のコードは比較処理が安定しています。文字列の場合、もちろんルールを定めれば、確実に比較はできますが、Unicodeのさまざまルールや、同じ文字でもコードが違うものが大量にあるなど、文字列比較は間違える要因が多いのです。であれば、整数連番の確実性を取りたいと考えるわけです。付けられた連番がデータと無関係にランダムになるのを嫌う場合もありますが、このキーになるデータは「利用者に見せない」のが基本です。仮に見せたとしても絶対に編集可能にしてはいけません。最近は多くの開発にフレームワークを使うこともあるので、自動的に数値連番をつけることもありますし、単一の数値での処理が組み込まれていることもあるので、結果的に数値連番フィールドを使うことになるのではないでしょうか。

次回は、この分離した表から元の表が求められるということを、細かい流れになりますが、説明しましょう。