FileMaker Cloudから今後のFileMakerベースのWeb開発を考える

日本市場のユーザーはまだ使えないものの、FileMaker ServerをAmazon EC2上のLinuxで稼働させるFileMaker Cloud 1.15がリリースされ、多数のドキュメントが公開されました。確定情報や、将来構想も含めてここ3、4年の動向を検討できる材料が揃ってきています。

FileMaker 15が最新の現在において、FileMakerデータベースをそのままブラウザから利用できるWebDirectがFileMaker社一押しのWebソリューションであることは言うまでもありません。HTMLなどのコーディング不要であり、FileMaker Pro/Advancedで開発したデータベースをWebでそのまま利用できます。もちろん、一部に要注意点はありますが、そのあたりはドキュメントが完備されている上にあちらこちらのブログやBBS、そしてFileMaker Communityを検索すれば、何かしら解決できる状態になっています。いわゆる「Web特有の開発作業」をしなくてもWeb化できる点では非常にいいソリューションですが、一方、接続ライセンスが必要になることもあって、不特定多数を対象とするWebサイトの場合、ライセンスの範囲内に留めるための工夫が必要になります。技術的に算出は可能なものの、予測が当たるか当たらないかと言う要素は排除できず、一定の確率でアクセスできない場合が出てくることになります。自社向けの業務系システムでは問題ないものの、Webの世界は色々なサイトの利用のされ方があり、そうした要求を満たすにはWebDirectにだけ頼れないという実情があります。WebDirectはFileMaker 13より正式リリースされいくつかのバージョンを経て完成度は上がってきており、近々は細かなアップデートや「より正確な動作」を目指す段階に入っていると言えるでしょう。

一方、カスタムWeb、つまりXML共有やPHP共有を利用したWebシステム構築は、古い仕組みのままでした。特にXML共有はFileMaker Ver.5.5時代のものから本質的には変わっていません。一時期のインスタントWebはデータベースの再現性の低さもあり、プログラミング言語による開発が必要なカスタムWebと用途を分かつような感じでした。もっとも、インスタントWebでできないことが多かったので、カスタムWebに頼らないといけない状況でした。しかし、FM13よりWebDirectが登場しました。カスタムWebは無くなってしまうのではないかという予測はその前後からあったものの、FM15現在、若干の機能アップをしながら本質的には同様な仕組みがずっと搭載されています。カスタムWebはライセンスに縛られないで利用できる場合が一般的なので(ボリュームライセンスは同一組織に縛られる)、不特定多数が参照するサイトにおいても、ライセンス不足で参照できないということを配慮しなくてもよく、マシンパワー的な問題を考慮するだけでWebサイトを構築できました。

ところが、FileMaker CloudはカスタムWebを非搭載となっています。今年のDevConでのセッションの1つSneak Peak: Overview of the FileMaker Cloudでは、Cloudの構成についてすでに公開されており、こちらの内容を見る限りはカスタムWebはCloudには搭載されません。しかしながら、「FileMaker Data API」というRESTベースの機能がCloudに搭載される予定のようです。今回の最初のリリースにはこのAPIは含まれていないことから、順次あるいは次のメジャーアップデートではその方向で開発をしているということになります。そして、興味深いのは、カスタムWebはいつまで使えるのかということです。ここからは完全に予測ですが、FileMaker 16でFileMaker Data APIがCloud及びWindows/Mac対応のFileMaker Serverにも搭載され、FileMaker 18か19くらいまでカスタムWebが使えるというくらいになるのではないでしょうか。両方が並立する期間が数年はあると予測します。根拠は、FileMaker社がのDeprecated Features(使用できなくなった機能)として、ある機能がなくなる場合にはいくつかのバージョンをまたいでアナウンスをしていることがあります。カスタムWebがなくなるというアナウンスはないので、次のFM16には搭載されると予測できます。

しかし、何れにしても、3年を超える範囲を考えれば、そろそろカスタムWebの終焉を視野に入れる時がとうとうやってきたのかもしれません。もちろん、FileMaker Data APIが次のターゲットではありますが、システム単位ではもっとドラスティックにFileMakerを使わないという選択肢を考えることもあり得るでしょう。

もう1つ、前述のDevConのセッションの内容では、LDAP/Active DirectoryからOAuthベースへの移行を行うとしています。これをWindows/Macで稼働するFileMaker Serverでもその方針で進めるかどうかは微妙かと思います。これらディレクトリサービスによる認証は、WindowsやMacではOSに搭載されているから組み込まれた機能であって、Linuxでも同様な実装はできたはずです。しかしながら、FileMaker Cloudは独自に用意したインスタンスでありそこを見直して、いっそのことWebやその他、様々な状況での運用が可能なOAuthにするということでしょう。これは、うまくすると、GOで一度認証すると、同じサーバーで運用する幾つかのデータベースへのアクセス時には、本来の意味のシングルサインオンが機能して、ユーザー名やパスワードの入力が不要になるかもしれません。Macの中で実現していたことが、GO/Windows/Mac/DirectWebとシームレスに認証結果を共有できるようになるのだとしたら、素晴らしいでしょう。したがって、OAuthをFileMaker社の各アプリケーションが背後で実装していて、ユーザーは気づかないうちにその恩恵を得ている…というシナリオが理想です。さて、実際にどうなるのかは運用してみないとわかりません。何れにしても、FileMaker Data API時代のWebアプリケーションは、OAuth対応を考える必要が出てくると思われます。

最後にINTER-Mediatorです。もちろん、カスタムWebベースでの稼働はFileMaker Serverのサポートが続く限り継続させますが、FileMaker Data APIへの対応は必定であることは言うまでもありません。現在はスペックも、テスト稼働もできないのでなんとも言えませんが、開発ができるようになった段階からなるべく早く開発を進める予定です。

FileMaker Cloud残念ながら稼働せず

昨夜というか未明にインスタンスを作りました。ヘルプによると、メールがきて、そこにセットアップするためのページを表示するリンクがあるのですが、昼過ぎてもメールは来ません。なるほど、そうやって、US/Canada以外には使わせないようにしているのか!というところです。多分、Amazonの顧客情報のリージョンによって、メールの発行をコントロールしているのでしょう。FileMaker CommunityではすでにCloudの話題が流れているので、USの利用者は使用を開始しています。ヘルプ画面を見るしかないので、FileMaker Cloud Supportのリンクを紹介しておきます。

ここからは想像です。セットアップの画面のヘルプを見ると、Amazonのアカウント番号、そして自分で決めるホスト名などを入力します。どうも、自分自身のインスタンスへのアクセスURLは「ホスト名」を含むURLとして決められるみたいです。Amazonのアカウントを知らせれば、背後でどのインスタンスが未セットアップなのかは分かります。ヘルプを見ると、「FileMaker Cloud」というシステムがAWS内で動いているようです。Cloud利用可能なユーザーに対して、そのユーザーのインスタンスとは別のセットアップシステムで入力すると、ターゲットとなるインスタンスに対して変更を行うような仕組みになっているのだと思われます。したがって、セットアップのURLをメールで知らせてもらわないと絶対にわからないし、知らせてもらったとしてもAmazonの顧客情報を付き合わせれば、未提供のリージョンであれば何もしないというどうさになるのかもしれません。

そんなわけで、残念ながら、日本のユーザーはインスタンスのセットアップまでしかできないということになります。

FileMaker Cloudまだ使えず

EC2にインスタンスを作ったら、メールが来て、最初のセットアップができるようにヘルプには書かれています。しかしながら、1時間ほど待った今、まだ来ません。ということで、もう少し追加情報や検討ポイントを書いておきます。ちなみに、英語のサイトでは、Cloudのマニュアルページがすでに用意されていました。

まず、インスタンスを作った時に自動的に作られるセキュリティグループにファイアウォールの設定がありますが、「インバウンド」を見ればわかりますけど、ちゃんとFileMakerのデータベースのポートである5003が開いています。80, 443はいいとして、SSHは開いていません。しかしながら、編集ボタンを押して、SSHを追加すれば、通常の手順でSSHに接続できます。接続方法はコンソールのインスタンスで「接続」ボタンをクリックして確認できますが、デフォルトのユーザー名は「centos」であってrootではありませんので注意しましょう。当然ながら、インスタンスを作った時にキーファイルが作られてダウンロードしていると思いますが、こちらもアクセス権をmacOSだと600にするなど、sshの作法に従って作業をします。

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SSHで接続してみて見ると、Apacheもnginxも上がっていません。しかも、TCPで1つもポートが開かれていない。この状態ではデータベースはもちろん、外部から接続のしようがないように思います。それにヘルプに書かれた「メール」がない状況を考えて、がっつり推測ではありますが、この状態でなんらかのアクティベーションをFileMaker側で行うのではないかと考えました。どうでしょう。従来のライセンスを使う場合だと、FileMaker Storeでアクティベーションするのだから、なんらかのアクティベーションがあるのは確実ではないかと思った次第です。とすれば、確かに日本の顧客であればアクティベーションをしないという対処も可能かもしれません。ですが、これは推測です。

さて、ライセンスです。作業中に見えた別のページを見ると、Amazonに対してAMIの利用料を年間で払うプランもあるようです。これだと、年間880ドルだから、FileMaker ServerのAVLAより高いけど、まあべらぼうに高いわけではありません。これまで通り、FileMaker社から購入したライセンスでも、Amazonに対して年間あるいは時間で課金した料金でも支払えるようになっています。

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ちなみに、FileMaker Server 15は当初は、Windows ServerかOS Xでの運用しかできなかったのです。Linuxで稼働するサーバーは皆が(特にSI関係者は)熱望していたと思います。FileMaker 5.5のサーバーではLinux版もあったものの、FileMaker 7でWindows/Macだけになって10数年経過して、Linux対応していたのも忘却の彼方です。

サーバーなのでLinuxで稼働させるのはそんなに難しい話ではないと思いますが、おそらくLinuxで稼働させるとなると無数のディストリビューションがあることから、サポートコストがかさむことを懸念したのだと思われます。しかしながら、Amazon EC2のAMIで提供すれば、プラットフォームはAmazonだけだし、課金のシステムも完備です。サポートは最小限になるし、きちんとライセンス料を取れる仕組みであることを考えれば、仕組み自体は非常にうまく考えられています。

FileMaker Cloudのバージョンは、「FileMaker Cloud 1.15.0」となっています。1.がついている。FileMaker Pro/GOは15.0.2を使えとなっています。FAQを読むと、書き込み権限があるのはDocumentsフォルダなど限られており、サーバーサイドのスクリプトには注意が必要でしょう。といいつ、これはMacOSでは同様でした。スケジュールスクリプトが組めないというのも注意が必要でしょう。今後、アップデートでできないこともできるようになって欲しいものではありますが、ともかく、カスタムWebが動くようにして欲しいです。新し目のXMLスキームだけでもいいですから。

FileMaker Cloudが出たぞ!

突然、FileMaker Cloudがリリースされました。FileMaker Server 15のクラウド版ですが、Amazon Web Serviceで稼働するFileMaker Serverです。CentOS 7ベースです。なんと、カスタムWebは動かないので、INTER-Mediatorでは利用できません。他に、LDAP/Active Directoryのアカウントでのログイン機能もありません。ESSはサポートはしますが、ドライバが非対応ということはちょっと簡単ではなさそう。その他諸々いろんなチェックポイントがあります。

しかし、よく見ると、「FileMaker Cloud is currently only available in the United States and Canada.」と書かれている。日本のお客様はお預け〜!? ってことではいさようならとは行きません。AWSでどうやって日本からのアクセスを切るのかいなと思いつつ、AWSにログインして、リージョンを「バージニア北部」にします。そして、EC2のインスタンスを作って見るわけですが、ここで、AWS Marcketplaceを選択してFileMakerで検索すれば、あらあらちゃんと出て来ますね。

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一番規模の小さいのを選ぶと、ちゃんと値段もわかります。この「時間課金」というのはAWSでの一般的な課金方法です。FileMaker社からライセンスを買わなくても、時間課金ができるとは言え、よく見てください。最低の構成でも1時間が1ドル強、上がっても1.229ドル/時間。要するにアマゾンの費用に比べてFileMakerのライセンス料が異様に高いのです。月間30×24=720時間として、732ドル、ということで、月間7〜8万ほどかかります。まあ、こちらを選ぶ人は少ないでしょう。FileMakerからライセンスを買って使ってください。なお、その場合、AMIの選択肢が違います。ライセンスを自分で持っている(BYOL)人向けのAMIがあったりします。

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ここで、「お金を払っても試して見るか」と腹をくくったのですが、よく見ると、15日はフリーライセンスということで、Amazon側のEC2使用料のみで、15日は使えます。

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そういうわけで、なぜ日本では「入手できない」となっているのか?AWSは全世界に共通のサービスをしているのだから、昔の代理店ビジネスのようなことは最初からできるわけがないことは明白なのにどういうことでしょうね。

ということで、操作等より詳細を知りたい方は、インストール後に出て来たヘルプのページをご覧いただくと早いでしょう。

第1弾は以上!

Xcodeのビルド/バージョン番号をagvtoolで管理

Xcode 8にプロジェクトを変えたところで、あるプロジェクトで、PlistBuddyでバージョン番号をアップしていたのがあるのですが、スクリプトが引き継がれなくなったので、今風のやり方はないかと思って検索したら、agvtoolがあるなということで、使い方を考えてみました。Apple Generic Versioning Toolの略だそうです。ただ、いろいろ調べたり、結構詳しいmanを見て考えました。一番素直な使い方はどんなのだろうか?Xcodeのプロジェクト1つだけの場合と、別のプロジェクトを組み込んだ場合で考えて見ました。

使い方の前に、ここでいうVersioningとは、XcodeのプロジェクトのGeneralの設定にある「バージョン」と「ビルド」です。英語版しか今はないので画面通りに記述すると、IndentityのカテゴリにあるVersionとBuildです。

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このうち、Finderで表示されるいわゆるバージョンはここのVersionですが、Buildは一般には参照できません。Finderのバージョン表記に出てくる場合もありますが、それはさらにこれらとは別のバージョン表記です。バージョンに関する情報はアプリケーションバンドルのInfo.plistに記述されますが、次のような関係にあります。

短いバージョン 長いバージョン ビルド番号
Finderの情報ウインドウ バージョン バージョン 非表示
Finderウインドウ内 バージョン 非表示 非表示
WebのApp Store
iOSでのApp Storeアプリ
バージョン  非表示  非表示
Xcodeでの設定 Version Info.plistに設定する Build
Info.plistのキー CFBundleShortVersionString CFBundleGetInfoString CFBundleVersion

Finderの情報ウインドウに見えるバージョンには、Info.plistに長いバージョンつまり、CFBundleGetInfoStringがあればそれを表示しなければ短いバージョンつまり、CFBundleShortVersionStringを表示します。Finderウインドウをカラム表示にした時に右端に表示されるアイコン下の属性は、常に短いバージョンつまりCFBundleShortVersionStringが表示されます。

一方、iOSについては、Web上のApp StoreやiOSでのApp Storeアプリで、短いバージョンすなわちCFBundleShortVersionStringが見えていますが、iTunesでは見えていません。

表の最初の3行は一般ユーザーの目に触れるところで、最後の2行はXcodeやInfo.plistの世界です。つまり、ここではCFBundleShortVersionStringがバージョンで、CFBundleVersionがビルドであるということを認識してください。どっちもキーのキーワードにVersionとあり、一見するとCFBundleVersionがバージョン番号のように思えてしまうところが引っかかるところかと思います。以下、「バージョン」と「ビルド」としてそれぞれの設定を参照します。

agvtoolを使う基本的な設定

プロジェクトのビルド設定にあるBuild Settingsには多数の設定項目があります。そこのVersioningのカテゴリを見てください。Versioning Systemの右側の値が入っているところをクリックすると、ポップアップニュが出てくるので、「Apple Generic」を選択します。まず、この設定を行います。

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それから、上の図にはありませんが、同じVersioningのカテゴリにあるCurrent Project Versionに何か数字を入れてください。この数字はビルド番号の初期値となります。キー名に「Version」とありますが、このキーはビルドの値をおぼえておくために使われています。なお、その他のキーを見るとPrefixやSuffixなどがあり、ビルド番号を構築する時にこれらの文字列を前後につけることができるようになっています。

他のプロジェクトを読み込んでいないプロジェクト

まず、単純なプロジェクト、つまり、他のプロジェクトを読み込んでいないようなプロジェクトを考えます。この場合、ターゲットは通常は1つであるので、アプリケーションのバージョンはそのターゲットを1箇所変えるだけです。そのために、わざわざコマンドを動かすよりかは、Xcodeの画面上で手作業で変えた方がいいでしょう。ということで、バージョンについては自動化の必要はないと考えました。

一方、ビルドの方は、本当にビルドをした時、あるいはProductメニューからArchiveを選んでアーカイブを作った時など、ある程度自動的に設定をしたいと考えるでしょう。そのためには、タイツルバーのプロジェクト名の見えている部分をクリックして、Edit Schemeを選択します。そして、左側のBuildやArchiveの設定に、以下のようなスクリプトを追加します。Edit Schemeを選択してシートが出てきます。BuildあるいはArchiveのPre-actionsないしはPost-actionsを選択します。おそらく、最初は何もないと思われます。シートの下にある「+」をクリックして、New Run Script Actionを選択すると、以下のような画面になります。ここで、2行のシェルスクリプトを入れると同時に、Provide build settings fromのところで、アプリケーションのターゲットを選択しておきます。

shot3259

cd "${PROJECT_DIR}"
agvtool next-version -all

これでCloseをクリックします。上記の場合だと、command+Bでビルドすると、ビルドの番号がアップするはずです。現在の番号は、Build SettingsにあるCurrent Project Versionの値を取り出してアップして、「ビルド」の枠に設定します。現在、ビルドの枠に見えている数字がアップするのではありません。ちなみに、このagvtoolは、プロジェクトのルートをカレントにして動くようになっており、引数でプロジェクトのディレクトリを設定するようになっていません。そこで、ビルド時に作成される環境変数のPROJECT_DIRを利用してカレントディレクトリを移動し、コマンドを入力しています。agvtoolの引数はプロジェクトや値に関わらず、常にこの通りです。

プロジェクトを読み込んでいるプロジェクト

プロジェクトを分けていて、あるプロジェクトで統合している場合、まず、ビルド番号は前に示したような方法で、各プロジェクトに設定するしかないと思われます。ビルドの数はプロジェクトごとに違うでしょうから、それはそれでいいかと思います。

一方、バージョンの方は、以下のように一気にまとめて設定ができるようになっています。統合したプロジェクトのディレクトリをカレントにして、「agvtool new-marketing-version」に続いてバージョン番号を指定します。このマーケティングバージョンというのが、「バージョン」になるということです。

 

$ agvtool new-marketing-version 5.1
Setting CFBundleShortVersionString of project DLS to: 
    5.1.

Updating CFBundleShortVersionString in Info.plist(s)...

Updated CFBundleShortVersionString in "DLS.xcodeproj/../DLSTests/Info.plist" to 5.1
Updated CFBundleShortVersionString in "DLS.xcodeproj/../DLSUITests/Info.plist" to 5.1
Updated CFBundleShortVersionString in "DLS.xcodeproj/../DLS/Info.plist" to 5.1
Updated CFBundleShortVersionString in "DLS.xcodeproj/../Installer/Info.plist" to 5.1
Updated CFBundleShortVersionString in "DLS.xcodeproj/../Utility/Info.plist" to 5.1

ここで、読み込んでいるプロジェクトのInfo.plistも設定されることをメッセージで確認しましょう。

ただ、いくつか試してみた限りでは、読み込んだプロジェクト側にバージョン番号が反映される場合と反映されない場合がありました。以前から読み込みをしてあったプロジェクトは全てに反映されるのに、新たに作ったプロジェクトはだめでした。また、agvtool next-version -allの呼び出しをPre-actionsに設定すると、読み込み側のプロジェクトのビルドがキャンセルされることも見られたので、その場合はPost-actions側に設定することでビルドは全部流れるようになりました。

この辺りは、理由が分かれば追記しようと思います。

何れにしても、agvtoolのパラーメータは多数ありますが、ここで紹介したように、next-versionのものをプロジェクトにスクリプトとして仕組むことと、バージョンの設定のためにnew-marcketing-versionを使うことで概ねのことは賄えると思います。まずはこの線から始めてみてはどうでしょうか?

プロジェクトをXcode 8/Swift 3に変換した時に自動変換できなかった結果から変更点をチェックする

Xcode 7/iOS 9.3のプロジェクトをXcode 8で読み込んでSwift 3を利用するように変換した時の自動変換結果については、こちらに記述しました。そして、ターゲットをiOS 10にして、一部、赤いエラーが出たところなどを直すことになります。それらについてまとめておきます。

署名ができない!

実は、この問題に最後まで苦しみました。署名に関するプロジェクトの設定をあれこれいじってもエラーが出て完了しませんでした。エラーのログをよく見ると、こんなメッセージが見えました。

xxxx.app: resource fork, finder information, or similar detritus not allowed
Command /usr/bin/codesign failed with exit code 1

しかし、リソースフォークをいじった記憶もありません。そこで検索すると、stack overflowのサイトに答えがありました。どうやら、画像なんかにはアプリケーションが勝手にリソースをつけていたりすることがあるので、それを消せばいいということでした。リソース等は署名対象外にしないといけないというのは、最近ルールとして増えたのかもしれません。プロジェクトのルートをカレントディレクトリにして「xattr -rc」、これでエラーがなくなりました。このコマンドは、リソースフォークやFinder情報などのファイルの付加情報を消します。-cで消す、-rでサブディレクトリをすべてさらいます。もちろん、ファイルそのものは消しません。拡張情報の処理コマンドです。

変換されない箇所が残るパターン

NSURLをURLは自動的に変換してくれると思ったのですが、以下のようなパターンの場合は、自動変換してくれず、手動で書き換えました。NSを消すだけですが、AnyObjectはAnyにするなどを知っておかないと作業は面倒になります。完了時のクロージャーはもしかすると、キーワードなしで、閉じかっこの次に記述しておけば変換してくれたのかもしれませんが、これは想像です。

  • variable as Dictionary<String, NSURL>?
  • self.webView.evaluateJavaScript(script, completionHandler: {(obj: AnyObject?, error: NSError?) -> Void in ….

返り値があるのに代入していない場合

例えば、以下のようなプログラムがあるとします。いずれも、返り値のあるメソッド呼び出しであり、インスタンス生成です。これらは、「Result of call to ‘lengthOfBytes(using:)’ is unused」などというメッセージで警告となります。返り値が使われていないというのです。以下のサンプルはさておき、返り値の不要な場合は時々あります。いちいち変数を定義すると、今度はその変数が使われていないと言った警告が出ます。(ちなみに、おなじみの定数「NSUTF8StringEncoding」は、「String.Encoding.utf8」のように、よりスッキリした記述に変わっています。)

"test".lengthOfBytes(using: String.Encoding.utf8)
String("")

この場合、以下のように、_ = に続いてステートメントを記述します。つまり、空代入のようなことをするということです。これも、返り値があるのに忘れているようなミスを防ぐためということになっていますが、ちょっとやりすぎな気もしますね。

_ = "test".lengthOfBytes(using: String.Encoding.utf8)
_ = String("")

#if等でコンパイル時の分岐がある場合

Xcode 8でのコンバートをする時に、定義定数がない状態でのコードが変更されます。したがって、#if等で変数が定義されているかどうかを確認するような場合、ELSE側だけが変換されました。変換されない方は手作業で変更するしかありません。

アプリケーションのバッジを稼働させる方法

バッジ等のユーザー通知をアクティブにするには、iOS 9まではAppDelegateクラスのapplication(_:didFinishLaunchingWithOptions:)メソッドに、例えば以下のようなプログラムを書いていました。変数applicationはメソッドの第1引数です。

let settings = UIUserNotificationSettings(types: UIUserNotificationType.badge, 
                      categories: nil)
application.registerUserNotificationSettings(settings)

記述方法が以下のように大きく変わります。UNUserNotificationCenter(User NotificationフレームワークのUNが頭文字)クラスのインスタンスをcurrentメソッドで得て、requestAuthorizationメソッドで機能の利用を要求します。引数は定数(.badgeがホーム画面のアプリケーションのアイコンにつけるバッヂの許可で、他に.soundなどの定数がある)の配列を指定します。そして、処理完了時に実行されるクロージャーが続きます。許可の可否に応じて処理をすることができますが、何も書かなくても動作はします。

let center = UNUserNotificationCenter.current()
center.requestAuthorization(options: [.badge]) { (granted, error) in}

ちなみにrequestAuthorizationは2つの引数を持つので、次のような記述が可能です。むしろ、こちらは定義通りです。しかしながら、「最後の引数のクロージャー」については、引数の最後を示す閉じかっこの後に記述できる(Trailing Closure)ので、上記の書き方となります。

center.requestAuthorization(options: [.badge], completionHandler: {(granted, error) in})

なお、処理完了時のクロージャーに何も処理がない場合の一番短い書き方は、これではないかと思われます。

center.requestAuthorization(options: [.badge]){_,_ in}

openURLがdeprecatedになった

UPApplicationクラスのopenURLメソッドがdeprecatedになり、openを使うようにと警告が出てきます。ただし、引数が増えます。最初の引数にURLを指定するのは同じですが、optionsと完了時のクロージャーも記述します。それまで、openURLを使っていたのなら、おそらく当初は増えた引数は何も指定しないでOKでしょう。options:の後にnilを指定したらエラーになります。なので、中身が空のDictionaryを指定するのが手軽だと思います。そして、最後のクロージャーは閉じかっこの後に記述します。何も処理がない場合でも、引数並びは評価されるためnilは指定できません。いかが定義通りではありますが、もっと短くしたいのなら、{_ in} という記述でもいいでしょう。

// iOS 9
UIApplication.shared.openURL(navigationAction.request.url!)
// iOS 10
UIApplication.shared.open(navigationAction.request.url!, options:[:]) {(Bool) -> Void in}

NSRangeとRangeの変換は相変わらずできない

これ不便ですよね。ただ、文字列処理だけしていればRangeだけしか出ないのかもしれませんが、UITextFieldDelegateのメソッドなんかは文字列の変更箇所がNSRangeでやってくるので、Stringに対しての処理をしたい場合は、それをRangeに変更したいわけです。もちろん、NSStringで処理ということもありますが、せっかくSwiftなのだからStringで処理をしたいわけです。iOS 9の時には、自分で変換メソッドを作っていました。そこではadvancedBy(_:limit:)を利用していたのですが、Swift 3にはないらしく、index関数を利用して改めて作り直しました。extensiondでStringクラスにメソッドを追加して変換しています。以前のメソッドよりもだいぶんシンプルに短く書いていますが、それは自分自身のSwiftの知識が増えたからかもしれません。

extension String {
    func rangeFromNSRange(_ nsRange : NSRange) -> Range {
        let startIndex = self.startIndex
        let fromIndex = index(startIndex, offsetBy: nsRange.location)
        let toIndex = index(fromIndex, offsetBy: nsRange.length)
        return fromIndex ..< toIndex
    }
}

Any has no subscript members

AnyObjectで定義されたプロパティに対して、x[“test”]のようなさぶスクリプトが、iOS 9.3の時(あるいはSwift 2.3の時)には機能していたと思うのですが、Anyに対してはサブスクリプトが機能しないようなので、as! Dictionary<String, Int> といった明示的なキャストをする必要があります。

プロジェクトをXcode 8/Swift 3に変換した時の自動変換結果から変更点をチェックする

Xcode 8.0が正式に出ました。あるアプリケーションのプロジェクトをコンバートした時に自動的に書き換えられた結果をもとにどのような変更があったのかを記録しておきます。なお、このプロジェクトは、Swift 2.3の時に、Swift 3でdeprecatedになるという警告の箇所は、警告が出ないように変更した結果です。それ以前のバージョンのSwiftで作られたソースでは、もっと様々な変更の必要があると思います。まず、ターゲットは、iOS 9.3のままの状態でコンパイルが通るようにしてみました。

クラスそのものが変更されたもの

以下のクラスについて、名前が変更されています。矢印の左側が、Xcode 7.x(iOS 9.3)の場合の記述で、矢印の右側の記述に自動的に変換されたことを示しています。NSの付いたクラス名が付いていないものに変わってきています。おなじみのNSURLやNSErrorが、配列や文字列ど同様NSのないクラス名に変更されています。クラスの機能については大きくは変わっていないようです。NSURLSession及びその名前で始まるNSURLSessionTaskも含めて、頭の「NS」はなくなっていますが、今日現在、ドキュメンテーション中に「NSURLSession」が残っていたりします。最後のURLSession.AuthChallengeDispositionは列挙型です。

  • NSUserDefaults→UserDefaults
  • NSError→Error
  • NSURL→URL
  • NSBundle→Bundle
  • NSURLSession→URLSession
  • NSURLCredential→URLCredential
  • NSURLAuthenticationChallenge→URLAuthenticationChallenge
  • NSURLSessionAuthChallengeDisposition→URLSession.AuthChallengeDisposition
  • AnyObject→Any

インスタンスを得るメソッドがシンプルなプロパティに

「UIApplication.sharedApplication()」などは頻繁に記述していたのですが、Applicationという単語の重なりがなんか重い感じがしていましたが、「UIApplication.shared」のように、長いスタティックメソッドが短いプロパティに変更されました。コードがかなりスッキリします。以下のリストの最後から2つ目にあるにあるDipatchQueueクラスは、iOS 10から搭載されたクラスで、dispatchで始まるGrand Central Dispatch関連のAPIをクラスにラップしたものです。このクラスのドキュメントはまだ完全に埋まっていませんが、クラスはiOS 10からなのにメソッドのsync(execute:)のようにiOS 4から関数としてサポートしているものもあり、要するにやっとクラスとして使えるようにAPIを整えたという状況のようです。最後のUIColorクラスは、いくつかの色のオブジェクトを得るスタティックメソッドが用意されていましたが、これもColorの重複があったものの、redやgreen、blackといったプロパティで得られるようになりました。

  • UIApplication.sharedApplication()→UIApplication.shared
  • NSBundle.mainBundle()→Bundle.main
  • standardUserDefaults()→standard
  • UIScreen.mainScreen()→UIScreen.main
  • dispatch_get_main_queue()→DipatchQueue.main
  • UIColor.redColor()→UIColor.red

アクセス修飾子

従来の3種類から、open、public、internal、fileprivate、privateの5段階に変更されました。openとfileprivateがSwift 3より導入されたものです。従来のprivateは、全部fileprivateに変更されてしまいます。省略時にinternalになるのは変更ありません。
Swift 2.xではprivateによるアクセス制限はクラス単位ではなくファイル単位でした。したがって、1ファイルに2つのクラスを定義した場合、privateなプロパティでも別のクラスからアクセスができました。Swift 3ではファイル単位でのfileprivateと、クラス単位のprivateに分離しました。従来のprivateが現在のfileprivateになったということで、こうした変換を行なったのでしょう。
一方、publicとopenについては、元のpublicは現在はopenに対応します。いずれも、モジュール外からアクセス可能にするための修飾子ですが、Swift 3ではpublicはサブクラス化やoverrideできないという制約が付きます。

オプショナルバインディングの書き方

Swift 2位の時に、letの後にカンマで区切って複数の代入文が書けるようになり、ifを多重にネストしなくてもよくなったのですが、Swift 3ではカンマで区切ったそれぞれの代入文にletが必要になりました。以下の、let b = yのletは今までは不要だったのですが、これが入るようになります。

var x: String?
var y: String?
if let a = x, let b = y {
   print(a,b)
}

UIKitのAPIの変更

メソッド名やプロパティ名などがあちらこちらで変わります。ただし、総じて読みやすくはなります。例えば、UIViewControllerのshowViewController(_:sender:)、dismissViewControllerAnimated(_:completion:)、presentViewController(_:animated:completion:)の各メソッドが、show(_:sender:)、dismiss(animated:completion:)present(_:animated:completion:)へと極めて短くなりました。また、最初の引数にはキーワードをつけないということで統一されていて、最初のキーワードは関数名に組み込まれていましたが、状況によっては引数のキーワードとして使うようになりました。なので、dismissのように通常のメソッドでも、最初の引数にキーワードが付くことがあります。一方、UINavigationControllerクラスではpopViewControllerAnimated()がpopViewController(animated:)にはなるなど変化はあるものの、大きな変化のないクラスもあります。

UIViewクラスのhidden、userInteractionEnabledプロパティはisHidden、isUserInteractionEnableとなりました。Boolean型のプロパティのインタフェースを「is+属性名」としたということで、この部分はJavaなどのルールに即したということでしょう。また、プロパティ名にあった「URL」はほぼ「url」で置き換えられており、URLで始まるプロパティもurlで始まるようになっています。定数についても、以前は.Badgeのように頭文字は大文字でしたが、.bridgeのようにドットの次は小文字になりました。たまたま、Objective-Cで作ったクラスを入れていたのですが、そのクラスの定数も同様に頭文字が小文字になったので、この処理はブリッジ部分での変更であることが確かです。結果的に、クラス以外の頭文字は小文字というルールが浸透した感じです。

さらに、メソッドだったものもプロパティとして扱えるものは、プロパティになりました。UIViewControllerクラスでは、supportedInterfaceOrientationsメソッドがあり、それをオーバーライドして返り値をプログラムで記述することで、自分で作っているビューコントローラでの挙動を変更できました。これが、supportedInterfaceOrientationsプロパティに変わります。ただし、その後は、{…} で値を返すように記述することで、プログラムがゲッターとして機能します。つまり、var プロパティ名 : クラス に続いて { get { } set { } } と記述するのがセッターやゲッターの基本ですが、ゲッターだけなら、{ …..; return xx; } のように引数指定なしのクロージャのように記述するだけで変わりません。従って、メソッドからプロパティに変わっても、{ } 内は同じです。

func supportedInterfaceOrientations()->UIInterfaceOrientationMask // Swift 2.x
var supportedInterfaceOrientations:UIInterfaceOrientationMask // Swift 3

関数を定義する時、最初の引数にキーワードがないとき、単に記述しないで済みましたが、Swift 3では _ の記述が必要になりました。

@IBAction func tapRegistering(sender: UIButton) { // Swift 2.x
@IBAction func tapRegistering(_ sender: UIButton) { // Swift 3

@escapingが追加されるクロージャーの引数定義

WKWebViewのデリゲートメソッドの部分では、引数のクロージャーを持つものがありますが、メソッド定義の記述に@escapingが加わりました。Swift 2.3(iOS 9)ではこの@escapingはない状態で定義されていました。このアノテーションを追加することで、引数に設定されたクロージャーがメソッド実行後に消えてなくなってしないように保持をします。このクロージャー自体をlazyで指定したプロパティで使う場合や、あるいは配列にlazyプロパティを指定してさらにmapメソッドを適用することで、mapメソッドのクロージャーの適用を配列の要素を取得する時点で行うことができるのですが、そのmapメソッドの引数にクロージャーを指定するような場合に、@escapingで保持を指定するということになっています。

func webView(_ webView: WKWebView,
 decidePolicyFor navigationResponse: WKNavigationResponse,
 decisionHandler: @escaping (WKNavigationResponsePolicy) -> Void) {

ちなみに、iOS 10/Xcode 8とはあまり関係ありませんが、配列に対するlazyプロパティについてはブログ等でほとんど見られないので、ちょっと試して見ました。サンプルプログラムを見てください。配列mに対して、mapメソッドを直接ではなく、lazy.map()で適用します。nはprintすると、「LazyMapRandomAccessCollection<Array<Int>, Int>(_base: [1, 2, 3], _transform: (Function))」と出てくるように、特殊なコレクションです。このnをsubscriptによりアクセスすると、そのアクセスした時にmapメソッドを実行して結果を返します。kの値は最初は100ですが、lazy.map()の後に、kの値を変えて配列の要素にアクセスすると、その時のkの値が適用されて、201 202という値が得られます。まさに、メソッドの適用をlazyにするという仕組みと言えるでしょう。

var m = [1,2,3]
var k = 100
let n = m.lazy.map({s in return k + s})
print(n[0]) // 101 と出力
k = 200
print(n[0], n[1]) // 201 202 と出力

このプロジェクトはすでにSwift 2.3の段階で警告も含めてクリアしているので、++演算やそれを使ったfotなどの警告となっていた記述は一切ない状態だったので、それほど時間がかからずに変更はできました。こうして違いが出たところは概ね自動的に変更してくれるので、それはそれでいいのですが、仔細に見ることで色々と新しい機能も理解できるようになります。

[開発プロセス#10] バインディングとイベント処理の記述

ここまでのところで、ロバストネス図を出発点として、Webアプリケーション向けに設計図を作成するための表記方法を検討してきた。バウンダリーを詳細化して、必要な要素に分解してダイアグラムに記述することや、処理をコントローラーという大きな単位でなく、処理ステップという小さな単位で術することで、具体的な設計情報をダイアグラムに入れることができることを示した。続いて、クライアントサイトでのバウンダリーとエンティティの関係をバインディングという視点で見た時にどのように記述するかを検討し、そこから、イベントのハンドリングを記載する方法を検討する。

Web、すなわちHTMLでのユーザーインタフェースコンポーネント、つまり、ユーザーからの応答を受け付けるコンポーネントは、さほど種類は多くはない。ここではまず、テキストフィールド(INPUTタグでtype属性がtext)と、ボタン(BUTTONタグ)の2種類のコンポーネントを考える。例えば、ボタンを押すと、何か文字列がテキストフィールドに入るといったごく単純なプログラムを作りたいとしたら、ロバストネス図的には次のようになるだろう。今回は処理のステップまでは考えないので、コントロールは丸い矢印線のアイコンで記述することにする。

step1

ここで、バインディングの実装が入るとどうなるかを検討する。バインディングを一般的に記述すると、変数とコンポーネントの値が連動することと言える。ここでのコンポーネントは、テキストフィールドやあるいはHTMLの場合はノード(タグ要素)そのものも示す。そして、コンポーネントの値を得るには変数を参照することで可能となり、コンポーネントの値を変更するには変数に代入するということで実現する。つまり、変数がコンポーネントに成り代って存在することであり、変数とコンポーネントの状態の管理は、全てが自動的に、つまりはフレームワーク側で行うことが期待されてる仕組みである。タグによって動作が違う点の吸収など、実装上は様々なことを検討する必要があるが、ここではバウンダリーの値と変数の値が連動する点に集中することにする。前のロバストネス図を、テキストフィールドに対する変数があるとすれば、変数に代入すれば、その値がテキストフィールドに反映するという流れを次のように記述できる。

step2

しかしこれでは一方向だけの処理である。現実には、変数とテキストフィールドの双方向のやりとりが発生していて連動しているのだが、ここで、ステレオタイプを利用した表記を導入する。点線矢印にbindingというステレオタイプを記述することにした。本来は鏃を両側に記述したいのであるが、クラス図の点線矢印は依存関係を示すものなので、双方向という記述はできなくなっている。もちろん、ここでの点線は依存ではないのだが、処理の流れに実線を利用しているので、ここでは依存の矢印で代用し、ステレオタイプをつけることにする。なお、bindingは双方向であることが前提なので、鏃が片方でも誤解をすることはあまりないと考える。

step3

テキストフィールドが2つあって、一方で値を変更すると、もう一方に自動的にその値が反映される状態を記述すると、一例はこのようになる。テキストフィールドごとに変数を確保したとしたら、テキストフィールド2向け変数が更新された時、Observer実装が機能して、あるコントロールの処理が機能し、その結果、別のテキストフィールドの変数に値が代入されるということを意味している。処理2への矢印にobservedというステレオタイプをつけたが、observerは処理2、observableなものはテキストフィールド2向け変数である。ただ、この記述は仮のものである。

step4

ここで、observer実装により変数の変更によって処理が実行される状態を次のように記述する。つまり、監視している処理2から、監視対象のテキストフィールド2向け変数に対して、点線矢印を引き、ステレオタイプとしてobservingと記述する。背後で様々なメカニズムを持つとしても、設計時に概念として知っておくべきことは、何が何を監視しているかということだ。処理2では、テキストフィールド2の変更がbinding-observingとたどることで、処理2が開始される。処理2はテキストフィールド2向けの変数の値を得て、テキストフィールド3向け変数にその値を代入し、テキストフィールド3の値が更新される。

step5

続いてイベント処理も同様に記述できることを示す。イベントは、HTMLのコンポーネントにおいては既定値で発生させることができるようになっている。フレームワークによってはモデルのコンポーネントで独自のイベントを発生するようものもあるが、ここではHTMLの標準の仕組みを考える。以下の図で、ボタン2に対して処理3から、やはり点線矢印が引かれており、event-clickというステレオタイプが記述されている。eventは固定のキーワードで、ダッシュの後に、イベント名(ここでは「click」)を記載し、つまりはボタン2でクリックイベントが発生すると、処理3が実施されることを明確に記述することができる。この図では、ボタン2のクリックにより、テキストフィールド3向け変数に値が代入されるので、テキストフィールド3の値が更新される。

step6

イベントやobserverの実装の記述を利用すれば、バインディングの処理そのものを記述することができる。システム設計上は、bindingというステレオタイプで線を引くだけでいいが、実装をするとなると、次の図のようになる。つまり、テキストフィールドからのいくつかのイベントを拾い、その結果を対応する変数に反映させる作業が必要になる。一方、変数の変更があれば、observingしているコントロールに処理が移り、変数の値をテキストフィールドに反映させる作業が必要になる。この図を見ると、明らかにループしそうだ。テキストフィールドの変更結果が変数を更新し、その結果observerによりテキストフィールドを更新する。ただ、HTMLの場合、そこでイベントは発生しないので、無限ループにはならないが、処理に無駄が出る。これを回避する方法としては、変数の更新処理において、obeserverを動作させるものとさせないものを用意して、適切なメソッド呼び出し(あるいは引数設定)をするといった方法がある。何れにしても、バインディングについては、通常は図の上の表現でも良いが、これまでに検討してきた結果をもとに、その部分を詳細に記述することも可能である。

step7

クライアントサイドでの設計で必ず考慮すべきイベントの表記も含めて、JavaScriptレベルの実装に近づけるより詳細なダイアグラムの記述ができるようになってきたと言えるだろう。